[掲載]週刊朝日2010年7月30日号
■善悪を単純に描いていないのがいい
メアリー・ノートンが『床下の小人たち』を書いたのは1952年、岩波少年文庫版が出たのは1956年だった。つまり半世紀以上前から邦訳のある古典的名作のひとつである。2000年に新版になって、この6月で18刷。大ロングセラーである。これがいまベストセラーになっているのは、スタジオジブリの映画、「借りぐらしのアリエッティ」の原作だからだ。映画化される小説はたくさんあり、カバーを替えたり帯をつけたりそれなりに宣伝するが、ヒットにつながるのはごく一部。やはりジブリ映画は特別だ。
舞台はイギリス。古い家の床下に小人の家族が住んでいる。夫婦と娘。娘の名前がアリエッティである。「訳者のことば」によると、彼らは「背が20センチくらいで、野原や家のなかの人目につかないところに住んでいて、人間や自然から、いろいろなものを《借りて》きて暮らしている」。
身体が小さいだけで、ほかは普通の人間とまったくおなじ。言葉もわかるし、着ているものもふるまいもおなじ。しかし、彼ら専用のものがないので、人間からいろんなものを拝借して転用する。たとえば吸い取り紙を絨毯に、糸巻きを椅子に。こうした「見立て」もこの作品の魅力だ。
ひとつ彼らには重要なルールがある。それは、存在を人間に知られてはいけないということ。ところがある日、小人の父親はこの家の10歳の少年に見られてしまう。そこから小人たちの平和な日常に重大な変化が訪れる。
この小説は子ども向けのファンタジーである。カバーには「小学5・6年以上」と書いてある。「以上」なんだから、52歳の私が読んでもいい。正直に言うと、すっかり夢中になってしまった。小人が善で人間が悪だと単純に描いていないところがいい。小人一家が危機に見舞われるのは、彼ら自身のせいでもある。
こういう作品に目をつけるところが、スタジオジブリと宮崎駿のおもしろさ。映画も見なくては。
著者:メアリー ノートン
出版社:岩波書店 価格:¥ 714