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「脱北者たち」 苦難と夢、素顔を描く

 「脱北者」と聞くと、大使館への駆け込みや、非武装地帯を銃撃されながら走る兵士の姿が思い浮かぶが、彼らが脱北に至る経緯やその後の詳細の多くはベールに包まれ、思いをはせることはなかった。
 『脱北者たち 北朝鮮から亡命、ビジネスで大成功、奇跡の物語』(駒草出版・1728円)は、韓国社会が息苦しいと日本に来た申美花(しんみふぁ)・茨城キリスト教大教授が、5人の脱北者と支援する牧師らにインタビューした本だ。本書を読むと、脱北者と一口にいっても、北朝鮮を逃れた理由、脱北の途中で遭遇した苦難はそれぞれ異なり、解説を寄せた政治学者、姜尚中氏の言葉を借りれば「泣きもし、笑いもし、涙ぐましい努力を通じて人生の夢を叶(かな)えようとする」一人の人間として立ち現れてくる。
 今や脱北者は3万人に上るという。著者は能力と運に恵まれた5人の成功が他の脱北者の励みになってほしいと願うのだが、北朝鮮や脱北者を人身売買する中国などでの体験は非人道的で、脱北者が立ち直るのは容易ではないだろう。(久田貴志子)=朝日新聞2018年7月21日掲載