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中脇初枝「神に守られた島」書評 特攻隊・空襲+砂糖炊きの日常

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2018年09月08日
神に守られた島 著者:中脇初枝 出版社:講談社 ジャンル:小説の通販

ISBN: 9784065122051
発売⽇: 2018/07/12
サイズ: 20cm/231p

神に守られた島 [著]中脇初枝

 沖永良部島って、知ってます? 鹿児島県なんだけど、奄美群島の、もうすぐそこは沖縄っていう場所にある珊瑚礁の島だ。
 西郷隆盛が流された島だっけ、くらいのイメージしかない人も、本書を読めば認識が一変するだろう。
 『神に守られた島』は小説である。舞台はしかも戦争末期だ。人々がえらぶと呼ぶ島には、ヤマトゥ(本土)から来た守備隊の兵隊さんたちが駐屯している。沖縄に向かう特攻機らしき飛行機が見えると、大人も子どもも大きく手を振る。
 〈「特攻隊のおかげで、えらぶにはアメリカが来ないんだよー」/「感謝しないといけないよー」〉
 語り手の「ぼく」ことマチジョーは島の国民学校の生徒である。天気のいい日は上空にグラマン(アメリカ軍の戦闘機)が飛び、空襲もしょっちゅうだ。少年たちにとってはしかし、それが日常。空襲も〈こわくないよ。もう慣れた〉。
 梅雨時のある日、エンジンが故障した特攻機が島に不時着した。特攻隊員の西島伍長はケガをしたが命は助かった。うなだれる伍長と、ごちそうや唄や三味線で歓待する島の人々。だけど、息子が戦死したじゃーじゃ(おじいさん)は質問せずにいられない。〈やはり、特攻隊員というのは、志願されるんですか〉
 砂糖を炊き、牛を引くのどかな暮らしと、特攻機が飛ぶ風景が同居した島。地上戦の舞台になった沖縄とも、都市への空襲が相次いだ本土とも異なる固有の戦争体験を、忘れ物でも拾いにいくように、作者はていねいに描き出す。
 新聞もラジオもないえらぶの人々が敗戦を知ったのは玉音放送の13日後。奄美群島が米海軍の統治下に入ったことを知るのは、守備隊が去った後だった。
 ちばりよ 牛よ さったー なみらしゅんどー。作中の島唄がしみる。日中韓を舞台に戦争に翻弄された少女たちを描く前著『世界の果てのこどもたち』に続く良質な反戦小説である。
    ◇
 なかわき・はつえ 1974年生まれ。『きみはいい子』で坪田譲治文学賞。『わたしをみつけて』など。