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吉田修一「国宝」 道を極める女形二人 絢爛の軌跡 朝日新聞読書面書評から

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2018年10月27日
国宝 上 青春篇 著者:吉田修一 出版社:朝日新聞出版 ジャンル:小説

ISBN: 9784022515650
発売⽇: 2018/09/07
サイズ: 20cm/351p

国宝(上・青春編、下・花道編) [著]吉田修一

 立花喜久雄ってえ男が『国宝』の主人公でありまして。長崎の極道の一門に生まれるも、15歳にして長崎を出ることになった。立花組の親分だった父親の権五郎が抗争で命を落とし、相手方の親分への敵討ちに及んだあげく、長崎にはいられなくなったという次第で。
 時は1964年、東京オリンピックの年。父親の跡目を継いだ人物のはからいで、喜久雄の身柄を預かったのが、大阪の人気歌舞伎役者・花井半二郎だった。
 一方、こちら、大垣俊介。半二郎の実の息子で、つまりは四歳から舞台に立つ梨園の御曹司。いずれ半二郎を襲名する身なれど、ちょっとぼんぼんなのがアレで。
 二人はこうして、ともに女形の才能を見いだされ、切磋琢磨して稽古に励むことになる。
 いや、朝日新聞の連載小説ですからね。んなこたぁ連載中から読んでいたから知ってるわ、かもしれません。が、ここはまとめてえいやっと読んでいただきたい。
 学校帰りの道すがら〈なぁ、俊ぼん、京都行ったら、祇園に連れてってくれる言うたん、あれ、ほんまなん?〉と喜久雄が問えば、〈ほんまもほんま。うまいこと運ぶように、もう源さんに段取りしてもろうてるし〉と俊介が答える。お茶屋遊びの相談をこく少年なんてそうそうおまへんで。
 20歳になり、大抜擢で『二人道成寺』を踊ることになった花井半弥(俊介)と花井東一郎(喜久雄)を前に半二郎は言う。
 〈俊ぼん、アンタは生まれたときから役者の子や。他の子らと野球するのも我慢して稽古してきたはずや。何があっても、ちゃんとアンタの血ぃが守ってくれる。そいで喜久雄。アンタ、うちに来て何年や? 五年になるやろ。そのあいだ、一日でも稽古休んだことがあるか? ないはずや。この『道成寺』かて、誰よりも稽古してきたんやろ。せやったら、なんの心配もいらん〉
 クーッ、いいこと言うねえ。
 ところが、御曹司の俊介は困った親不孝者で、何を思ったか、こいつ、女の子といっしょに、ある日、出奔してしまった。病に倒れ目をわずらった半二郎は、ついに喜久雄に三代目花井半二郎を襲名させる決断をする。
 極道の家に生まれた喜久雄と、歌舞伎役者の家に生まれた俊介。本人たちは血へのこだわりなど微塵もないのに、周囲がそれを許さない。役者の道をきわめるも、後年、喜久雄は出自に悩まされ、復帰を目指した俊介は思わぬアクシデントに見舞われる。
 芸能界の華やかな話題もふんだんにちりばめた豪華絢爛な長編小説。友情あり、恋模様あり、歌舞伎の裏話あり。しばし、非日常の世界で遊ばれたし。
    ◇
 よしだ・しゅういち 1968年生まれ。作家。2002年、「パーク・ライフ」で芥川賞。『パレード』(山本周五郎賞)、『横道世之介』(柴田錬三郎賞)、『悪人』(大佛次郎賞、毎日出版文化賞)、『怒り』など。