突然ですが問題です。「しんしんと桜が湧きぬ○○○○○」の○○に好きな言葉を入れて俳句を完成させなさい。
これに「クレーター」と答えたのが本作の主人公・尾崎流星だ。ある大学の芸術学部文芸学科に入学し、小説志望なのになぜか俳句ゼミに入ることになった。その2回目の授業の課題が右の句を含む3句の「穴埋め俳句」である。
流星はじめゼミのメンバーは皆まったくの初心者。ゆえに、先生の講義は読者にもわかりやすい。とはいえ単なる俳句の学習マンガとは違う。赤子連れ、饒舌(じょうぜつ)オタク、マツコ・デラックス似のハーフ、ネガティブコミュ障と、濃いキャラぞろいのゼミ生たちの会話はコント級。言葉選びのセンスが秀逸で、セリフだけで誰の発言かわかるのはキャラが立ってる証拠である。
一方で、自意識過剰な若者たちの青春群像劇としても期待大。数文字の穴埋めに〈自分の言葉を人に見られる覚悟ができていない〉と動揺し、小説投稿サイトの感想に過敏反応し〈自分の一喜一憂力でそのうち死ぬ気しかしない〉と自虐する。そんな彼らが俳句ゼミから何を学び、どう成長していくのか。表現に向き合う姿勢、他者との距離感など、見るべき点は多い。=朝日新聞2018年11月10日掲載
編集部一押し!
- 売れてる本 岩尾俊兵「世界は経営でできている」 無限に創造できる人生の価値 稲泉連
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社