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村岡桃佳さんが好きな文庫 東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」

村岡桃佳さん(C)安井宏充

思い伝える大切さを教わった

 この作品はファンタジーだが、どこかリアリティーや心に残る何かが詰まっている一冊だ。過去と未来をつなぐ郵便口を通して、雑貨店主に代わって人の悩み相談に答える手紙を書くことになった複雑な過去を持つ強盗3人組。人生に希望が持てずに迷っていたり、あふれんばかりの感情と葛藤に揺れ動いたりしているとき、コミュニケーションや人との関わりが悩みを抱えた人の大きな助けになることを学ばせてくれる。

 作品の最後で雑貨店主が3人に書いた手紙で「あなたの地図は、まだ白紙なのです」「すべてがあなた次第なのです。何もかもが自由で、可能性は無限に広がっています」と伝えた言葉が、自分にも多く可能性があると感じさせてくれた。

 私の人生においての壁や挫折やスランプも、人と話すことによって乗り越えられてきた。平昌五輪の前に「考えが甘い」とひどく怒られ競技を続けられるか悩んだこともあったが、周りの人に相談するうち、続けるのもやめるのも自分の選択次第だと思え、戦う覚悟ができた。

 また、チームスタッフやスポンサーさんや応援団の方々にも、言葉でお礼を伝えるべきだと思った。忘れてしまいがちな言葉の重みと大切さ。今後の競技生活において結果が出た時、その時の私の気持ちを言葉にして、届けられたらうれしい。(寄稿、写真〈C〉安井宏充)=朝日新聞2018年12月1日掲載