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「ショウコの微笑」 不器用に擦れ違う心を抱いて

評者: 都甲幸治 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月16日
ショウコの微笑 (新しい韓国の文学) 著者:チェ ウニョン 出版社:クオン ジャンル:小説

ISBN: 9784904855812
発売⽇: 2018/12/25
サイズ: 19cm/329p

ショウコの微笑 [著]チェ・ウニョン

 人と心を通じ合わせるのは、こんなに困難なことなのか。表題作でソユの家には笑顔がない。だから高校生である彼女の家に日本からショウコがホームステイに来たとき、ソユは驚く。
 店を潰して以来、何十年もほぼ家から出ず、むっつり黙り込んでいた祖父は笑顔で日本語を話し続ける。あれほど日本が嫌いだったのに。そして母はショウコの前で目を輝かせて笑う。
 ショウコとの1週間は奇跡のようだった。そして、あなたは映画監督になるだろう、という彼女の言葉に導かれて、ソユは20代を夢に費やす。だが10年の苦難は彼女に、才能の無さを思い知らせただけだった。
 一方、故郷で鬱病に苦しむショウコは周囲の誰にも心を開けずにいる。そしてソユや彼女の祖父と何百通もの手紙を送り合う。ほんの短い時間を共にしただけの彼らが、外国語で互いの命を支える。
 遠い存在のほうが心を開けることがある。しかし祖父の余命があとわずかだと分かると、家族は初めて互いの想いをぶつけ合う。彼らがそうなれたのも、おそらくショウコがくれた愛のおかげだ。
 チェ・ウニョンはまだ新人だ。だが本短編集は韓国でベストセラーとなり、表題作は「若い作家賞」も取った。収録作品はどれも、不器用さや擦れ違い、そして悲しみに満ちている。
 短編「オンニ、私の小さな、スネオンニ」で主人公は思う。「本当に大切な人というのは、意外に人生の早い段階で現れていた。ある時点を過ぎると、子どもの頃は難なく越えられた人間関係の第一関門すら通過できなくなった」。でも、それでは悲しすぎるだろう。もはや大人になってしまった僕らは、心の扉の鍵をどう手に入れればいいのか。
 祖父から来た200通もの手紙を携えて、ショウコは韓国に戻ってくる。ソユに拒絶されるかもしれないのに。大事なのはほんの少しの勇気だ。そのことを彼女は教えてくれる。
    ◇
 Choi Eun-young 1984年、韓国生まれ。2013年に表題作で『作家世界』新人賞を受賞し作家デビュー。