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「科学立国の危機」 選択と集中、行き過ぎは間違い

評者: 長谷川眞理子 / 朝⽇新聞掲載:2019年03月30日
科学立国の危機 失速する日本の研究力 著者:豊田 長康 出版社:東洋経済新報社 ジャンル:自然科学・科学史

ISBN: 9784492223895
発売⽇: 2019/02/01
サイズ: 19cm/536p

科学立国の危機 失速する日本の研究力 [著]豊田長康

 我が国は資源に恵まれず、島国で山も多い。しかし、古来より刻苦勉励をよしとし、近代国家として経済発展を成し遂げてきた。明治以降は、科学が果たした役割が大きい。
 しかし、今はどうか? 経済は伸び悩み、少子高齢化が進む。国立大学法人の運営費交付金は徐々に減り、研究者の数は増えない。研究者をめざす若者は減っている。論文の生産数も減り、大学ランキングも下がり気味。日本の科学技術力は明らかに落ちている。このことは、誰もが持っている共通認識だろう。それではどうしよう? ここで起死回生をはかるには、どんな政策をとるべきか。それを考えるには、実情のリサーチをしなければならない。
 本書は大変な労作だ。多くの国際的なデータと統計を駆使して、どんな要因が科学の研究力を上げることにつながるのかを詳細に分析している。200枚以上の図表がぎっしりつまった分析は圧巻。まずは、そこに敬意を表したい。一国の科学技術の状況を正確に把握するには、これだけの細かな分析が必要なのだ。自分の言説に都合の良い1、2枚の図を持ってくればすむ話ではない。
 分析の果てに見えてくるのは、過度の「選択と集中」は間違いだということだ。人を育てるのが本当に大事だということ。研究業績をあげてGDPの成長に結びつけていくためには、研究者の数を増やし、さまざまな所に活躍の場を増やしていくことが重要なのだ。
 日本は人件費削減で、研究者の数を増やしてこなかった。そして、大企業や一部の国立大学に資金が集中し、広がりがなさ過ぎる。
 最後の第6章では、大量の分析を総合し、何をすればよいか、してはいけないかが提言される。最近流行の数値目標も、どんな意味と根拠があるのか、説明がていねい。政策を決めるには、せめてこれくらいの分析をもとにして論じあって欲しいと思わせる一冊だ。
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 とよだ・ながやす 1950年生まれ。三重大教授(産科婦人科学)を経て2013年から鈴鹿医療科学大学長。