安くておしゃれな服。24時間何でも買えるコンビニ。そんな“豊かさ”の代償について考えさせられる書である。
売れ残った服が集まる倉庫、古着のリサイクル工場、廃棄された恵方巻きなどを飼料に加工する工場――女性記者による現場ルポは、大量生産・大量廃棄社会の現実を描き出す。個々の取材の断片をつなぎ合わせて浮かび上がるのは、大量廃棄を前提としたビジネスモデルの功罪だ。
原価を抑えるため、アパレルは売れ残り覚悟で人件費の安い国に大量発注する。コンビニでは、本部の取り分を増やし、「販売機会ロス」を避けるため、店舗側に多めの発注を求める。なんという無駄だろう。その無駄の裏で、低賃金の長時間労働や地球環境への負荷といった無理が生じていると本書は指摘するのだ。
新聞連載を元にしているせいか、本としての統一感にやや欠けるが、問題提起の役割は果たしている。拡大する中古市場の負の側面、リサイクルしにくい化学繊維の増加など、循環型社会に向けての課題には特に学びが多い。年に10億点もの服が新品のまま廃棄され、毎日1人あたりお茶碗(ちゃわん)1杯のご飯が捨てられる。そんな社会を変えるため、自分ごととして捉えたい。=朝日新聞2019年6月1日掲載
編集部一押し!
- 著者に会いたい 奈良敏行さん「町の本屋という物語 定有堂書店の43年」インタビュー 「聖地」の息吹はいまも 朝日新聞読書面
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社