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「自公政権とは何か」書評 安定もたらす技法を精緻に分析

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2019年07月20日
自公政権とは何か 「連立」にみる強さの正体 (ちくま新書) 著者:中北 浩爾 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480072160
発売⽇: 2019/05/07
サイズ: 18cm/364p

自公政権とは何か 「連立」にみる強さの正体 [著]中北浩爾

 平成の政治史というと、とかく衆議院の選挙制度改革に始まり、二大政党制への移行、民主党政権の成立と挫折、そして自民党・公明党政権の復帰として描かれることが多い。しかし、この図式には難点がある。何より平成政治のほとんどの期間は連立政権である。言い換えれば、二大政党ではなく中小政党が大きな意味を持ったことが見失われてしまうのである。
 そうだとすれば、平成政治のポイントは、いかに安定した連立の枠組みを形成するかにかかっていた。その意味で言えば、このような条件に最も巧みに適応したのが自公政権であり、これに対し民主党政権、さらにその後の野党もこれに代わる安定的な組み合わせを実現できなかったことになる。その状態は現在も続いており、このことが自公政権を長期化させている。
 それでも謎は残る。現在、衆参で過半数の議席を保持する自民党はなぜ単独政権を作らないのか。また、自民党と公明党の政策距離は、憲法・安全保障や福祉など、必ずしも近くないのに、なぜ両党は強固な連立政権を継続できたのか。
 本書は精緻な政党システム論や連立理論の検討を通じて日本の連立政権を分析し、細川護熙内閣以来の日本政治の過程を再検討する。その過程で、けっして盤石ではなかった自公政権が、選挙協力を中心に、いかに安定したパートナー関係を構築してきたかを描き出す。その鍵は自社さ、自自公、自公と枠組みは変わりつつも、政党間の調整コストを低下する努力と丁寧な協力関係にあった。
 逆に言えば、野党にとって大切なのは、このような連立政権の技法を学ぶことにあると本書は説く。ただし、現状においてはその展望は厳しい。あるいはさらなる選挙制度改革を含む政治改革が必要であると示唆して本書は終わる。
 令和最初の国政選挙である参院選を前に、令和の政治の課題を考える上で、必読の著作と言えるだろう。
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なかきた・こうじ 1968年生まれ。一橋大教授(日本政治外交史)。著書に『自民党「一強」の実像』など。