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「キム・ジヨン」だけじゃない!韓国文学が日本で熱い 各社シリーズ化、女性作家が人気

ピョン・ヘヨンさん

「モンスーン」のピョン・ヘヨンさん 「日韓作品、自由に出会いを」

 韓国の作家、ピョン・ヘヨンさんが短編集『モンスーン』(姜信子訳、白水社)の刊行にあわせて8月に来日した。表題作で韓国の重要な文学賞、李箱(イサン)文学賞を受賞。日本語版は3冊目、「親密さを感じている」という。

 『モンスーン』は、工事で停電になる夜、関係が壊れてしまった夫婦を描く表題作など9編。いずれも何げない日常に不条理が忍び込んでくる。「一番怖いのは日常が終わらないこと。穏やかに過ごしているように見える人々の生活に亀裂が走る瞬間を描きたい」

 最後に収録した「少年易老(いろう)」は、2014年4月のセウォル号沈没事故を受けて、友の死を乗り越える少年の物語の設定が変わったという。「小説でどの子も死なせられないと思うようになった」。「子どもの死」や「水」という言葉だけで事故を想像してしまう。「韓国の作家に与えたトラウマは大きい。小説は社会に影響を受けるものです」

 作品は男性の主人公が多い。フェミニズム文学の王道ではないが、静かな意思を感じさせる。「私の小説では登場人物が苦しくつらい状況に置かれる。それを女性に経験させたくなかった。フェミニズムはとても広い用語ですし、男性の声で消されてしまった女性の声の痕跡を描いてきたと思っています」

 日本での韓国文学ブームは韓国でも報じられ、興味深く記事を読んだという。「同時代の韓国文学が今一番早く翻訳されているのが日本語です。文学には個人と個人をつなぐ作用がある。そして文学は自由に出会わせてくれる。日韓関係の厳しいときだからこそ、日本の作品と韓国の作品がもっと自由に出会っていくのがいい。それが当たり前ですよね」

日常描く中に社会問題をうまく落とし込む

 女性の生きづらさを淡々とつづった『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)を翻訳した斎藤真理子さんは、韓国文学ブームの立役者の一人だ。

 斎藤さんが兆しを感じたのは2015年。共訳したパク・ミンギュの短編集『カステラ』(クレイン)が第1回日本翻訳大賞に選ばれた。16年にはハン・ガンが『菜食主義者』で世界的に権威のある英国のブッカー国際賞をアジア人で初めて受賞した。

 『菜食主義者』の日本語版を刊行したクオンは韓国文学に特化した出版社で11年に「新しい韓国の文学」シリーズを創刊。17年に晶文社が「韓国文学のオクリモノ」、18年から亜紀書房の「となりの国のものがたり」と各社が続く。5年ほど前までは「読者層が読めない」と企画は通りにくかった。「嫌韓本しか売れないと言われ、困りました。それが今では出版権の取り合いが起きるほど」

 現在、日本で読まれている韓国文学は30~40代の女性作家による作品が中心。数々の文学賞を女性が占め、女性作家の活躍がめざましく、韓国の事情がそのまま反映されている。

 かつての韓国文学は大きな物語が主流だった。国家に翻弄(ほんろう)される個人がどう生きるか。それが「扱うテーマもぐっと身近になっている」。恋人との別れ、母と娘の微妙な関係。フェミニズムや性的マイノリティーをテーマにした文学も増えている。描かれる文化や生活は日韓でほぼ変わらないが、「日本との違いは、作家の倫理観」と斎藤さん。

 「植民地支配や朝鮮戦争、軍事政権下での両親、祖父母の経験が現代の作家に層のように重なっている。『まともへの志向性』と私は呼んでいますが、社会のあるべき姿を求める意識が小説に常にある。日常を描きながら社会問題がうまく落とし込まれているのが、日本でも読まれる韓国文学の魅力だと思います」(中村真理子)=朝日新聞2019年9月11日掲載