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歌人・高田ほのかの短歌で味わう少女マンガ 小花美穂「せつないね」

ファーストファンレター

あなたはファンレターというものを書いたことがあるだろうか。

私は小学生のころ、漫画雑誌「りぼん」の先生方に宛ててファンレターを書いていた。
いまも一番尊敬し、憧れている職業は漫画家で、芸能人にはそこまでの憧れはない。
私は吉沢亮に会えても泣かないだろうが、今回ご紹介する『せつないね』の作者・小花美穂先生に会えたら泣く自信(?)がある。

でもなぜ、小学生の私が漫画家の先生にファンレターを出そう!と発想できたのか。
当時を振り返ってみると、「りぼん」の紙面に「めぐタンにお手紙を!」とか、「渉クンにお便りを♡」などの文言とともに集英社の住所が入っており、自然に、書くっきゃない!(昭和風)と思った記憶が蘇ってきた。ちなみに、めぐタンは水沢めぐみ先生、渉クンは吉住渉先生の愛称だ。(渉クンという愛称のおかげ(?)で私は長い間、吉住渉先生は男性なのかも…と思っていた)

私のファーストファンレターは小花美穂先生へしたためた。
先生の「りぼん」初3回連載『せつないね』へのあふれる想いをドキドキ綴ったことを覚えている。
そして、最後にこう締めくくった。
“大人になったら、先生のように、よんだひとの心に届くお話をつくりたいです。”

余談だが、当時の「りぼん」には先生へ宛てた一言メッセージを、ハガキに手書きした文字で載せてもらえるという企画があった。私は大好きの“大”を他のりぼんっ子より一回でも多く書いたら載せてもらえると信じ、枠からはみ出すくらい連ねていた。
小花美穂先生が大大大大大大大大大大大好きです♡

今回久しぶりに『せつないね』を読み返し、記憶力のない私が、“ 次のページでヨシさん(おさんどん係のおばちゃん)がせんべい吹き出しながら笑うぞ ” とか、“恭ちゃんがあき箱で作ったギターは小岩井クッキーの箱だったよなあ”とか、それはそれは細かく鮮明に覚えていた。

小学生の私よ、一体どれだけ繰り返し読んだんだ。
そして大人になった私よ、こんなに次の展開がわかっているのになぜまた号泣しているんだ。

『せつないね』の舞台はパチンコ屋。今読み返すと、キラキラした少女漫画の世界とは真逆の設定に驚く。りぼんっ子の好感度をまったく狙っていないじゃないか。
しかし、友だちのちーたんも和子ちゃんも私も、りぼんのキラキラしたテンションとは異なる、日常と地続きの世界観に心奪われた。

それは、先生の生み出すセリフ、独特のギャグ、モノローグ、絵の佇まいに「本当」が詰まっているからだ。

例えばこちらのシーン。

「せつないね」©小花美穂/集英社りぼんマスコットコミックス

駆け落ちした郁子を、その両親が見つけて連れ戻したときの、千絵(主人公)のお父さんのセリフ「…これまた…なんちゅー…フツーの親だ…」
日本語としてはおかしいかもしれないが、実感がこもっている本当の言葉。

そして、こちらのシーン。 

「せつないね」©小花美穂/集英社りぼんマスコットコミックス

いなくなった郁子を想い浮かべ来年がくる実感のない恭二と、その気持ちをわかって敢えて軽めに返す千絵。
何気ない会話にせつなさが滲む。

小花先生のマンガは、小学生相手でも手加減せず、常にがちんこの真っ向勝負だ。
ときにわからない表現があったとしても、そのがちんこの熱量は、小学生にだってちゃんと伝わる。
だから、その「本当」のみで編み上げられた作品は、設定がパチンコ屋でも、パンチパーマのおやじが出てきても、とことん純粋な少女漫画だ。

だから、『せつないね』は私が「本当」の言葉を紡ぎたいと思った歌人になるきっかけで、
先生は、ファーストファンレターを捧げた私の原点だ。

「せつないね」©小花美穂/集英社りぼんマスコットコミックス

一輪の蕾が水を吸うように恋をしました 切り花でした