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「それを、真の名で呼ぶならば」書評 あなたが種を植えたら木が育つ

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2020年04月11日
それを、真の名で呼ぶならば 危機の時代と言葉の力 著者:レベッカ・ソルニット 出版社:岩波書店 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784000237420
発売⽇: 2020/01/30
サイズ: 20cm/236p

それを、真(まこと)の名で呼ぶならば 危機の時代と言葉の力 [著]レベッカ・ソルニット

 著者は、「災害ユートピア」「マンスプレイニング(説明したがる男性のこと)」などの新しい言葉で社会事象を鋭く記述してきた作家・歴史家・アクティビストである。本書では、大統領選挙やその後のトランプのふるまいをはじめ、現代アメリカが抱える諸問題を縦横に論じている。
 僭越ながら、私も「やりがいの搾取」などの造語により日本社会を批判的に検討してきた。まして、本書はそのタイトルにも表れているように、「言葉」に照準を定めている。実は私も近著で教育にかかわる言葉の問題を取り上げているため、諸々相まって、「かの国の大先輩!」と強い共感を覚えつつ読んだ。
 読みつつ繰り返し想起されたのは、本書で記述されているアメリカの実情と日本との異同である。むろん共通点は多い。個人責任が重視され、女性や外国人への差別は強く、大企業の利益が優先され、教育への公的投資は削られ、貧困は放置されている。どれもひどいことばかりだ。敗戦後の日本がアメリカからの強い影響を受けてきたことの不幸を思う。
 しかし違う点もある。アメリカの方がひどい、と特に感じたのは、警察による、主に移民やアフリカ系市民への、あからさまな暴力や殺人が多数発生していることだ。日本の警察も時に暴力的な統制を行うが、これほどではなかろう。
 逆に日本の方がひどい、と感じたのは、これらの問題に対して、アメリカでは巨大な抵抗運動が起きており、ジャーナリズムもまた政治権力に阿(おもね)らないのに対し、日本ではそうした対抗的な動きは総じて弱いということだ。
 そんな日本の人々に向けて、本書から次のような言葉を引用しておこう。「どうか、ストーリーをブレイク(解き明か)してください」「未来に何が起こるかは、わたしたちの手にかかっているのだ」「あなたは種を植え、その種から木が育つ」
    ◇
 Rebecca Solnit 1961年生まれ。作家、歴史家、環境や反戦の活動家。『暗闇のなかの希望』など。