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「永遠のソール・ライター」 「光の絵」としての写真の魅力

 2回目の大規模な展覧会が今年の1月から東京のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されたソール・ライター。前回が2017年、3年のうちに2回も展覧会が開催されるのは、作家の人気ぶりを物語っている。2006年にドイツのSteidl社から出版された写真集『Early Color』を契機に世界中で知られることとなったソール・ライターだが、彼の作品をきっかけとして芸術写真に興味を持った人もいるようだ。

 ソール・ライターは1923年ピッツバーグ生まれ、23歳の時に画家を志してニューヨークへと移り住んだ。友人に勧められて撮影するようになり、すでに1948年ごろから当時は珍しかったカラー写真を始めている。彼の作風の特徴とも言える、影やガラスの反射、曇った窓ガラスなどを効果的に取り入れた技巧も初期から使われていて、卓越した彩色と構図のセンスは、画家としての才能によるものだろう。彼が残した絵画を見ると、鮮やかな色彩のものが多い。カラー写真を好んでいたのは、絵画と近い感覚があったのではないだろうか。

 写真を意味する英単語“Photograph”はギリシャ語を起源としていて、“Photo”は「光」、“Graph”は「絵」を意味する。言葉の起源に従って日本語に訳すと「光の絵」というのが正しく、写真は決して真実をありのままに写しているわけではない。ソール・ライターは街にあふれる形や色を素材として、偶然と光の織り成す絵を描いていた。

 SNSの普及で撮影が身近なものとなり、人々は日常的にアプリの優れた機能を使って現実と違った画像を作っている。SNSでシェアされる画像は「写真」というよりも「光の絵」に近いのではないだろうか。ソール・ライターの写真に多くの人が魅了されている理由は、作品が素晴らしいことに加えて、写真は「光の絵」であるという性質を鑑賞者が会得した時代性もあるのかもしれない。=朝日新聞2020年4月18日掲載

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 小学館・2750円=2刷3万2千部。1月刊行。妹デボラのポートレートなど、初公開作品を収録。同名の展覧会(既に終了)に合わせて発売し、来場者によく売れた。