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「靴理人」で知るシューフィッターのお仕事 靴は持ち主を映す「鏡」

文:佐藤直子

 新学期の始まる9月、まずは足元を新たにして気持ちをリフレッシュ、リスタートしませんか? 洋服やメイクよりも、靴は後回しにされがち。ところが靴は口ほどにモノを言い、持ち主を映す鏡なのだそう。その真実を『靴理人(シューリニン)』(尾々根正・大鳥居明楽、芳文社)が解説してくれます。

 1日1組限定、10円で靴を修理する「歩靭館(ほじんかん)」の主・尚木翔良は、ドイツで靴づくりを学び、帰国後に祖父の時代から続く修理屋を営みながら、密かに小説家を目指しています。人生は靴に表れるというのが信条で、靴の修理を安くする代わりに依頼者の靴にまつわるエピソードを小説のネタにしています。小説の腕はイマイチですが、実はどんな靴でも快適な履き心地に変えてしまう腕利きのシューフィッター。目視した瞬間に靴の状態や持ち主の歩き方やクセ、健康状態、性格までも見抜いてしまう特殊能力「スキャン」を持っているのです。

 ある日、出産を機にイライラすることが多くなったという女性が翔良の店を訪れます。彼女の靴をスキャンした結果、お産のダメージで骨盤がうまく閉じずO脚になってしまい、外側に重心がかかって胸部が狭まり、息苦しく疲れやすくなったのでは?と翔良は見事に言い当てます。中敷きを敷いて重心を調整し、つま先の遊びを減らして踵の角度をフィットさせると、女性は「目線が高くなった」と笑顔になって帰っていきました。

 何千、何万足から各々の足にフィットする最適な靴を提案し、中敷きなどを使って持ち主の足に合うよう靴をカスタマイズすることがシューフィッターの仕事ですが、新しい靴の購入を勧める場合もあります。

 面接用の革靴を持参した男性の靴は、ベタベタで湿気だらけ。毎日同じ靴を履き続けたことで通気性、クッション性、ゆがみなどの問題が生まれ、靴本来の機能を発揮できずにいました。そんな状態の靴では、フレッシュな気持ちで面接に臨むのは難しいハズ。靴を履いた時に足の形、幅、甲の高さ、指の長さなどどれかひとつでも違和感があると身体に影響を及ぼします。踏み込みが強すぎてかかとがすり減っている様子から、余計な力が足にかかっていることも翔良は見抜き、新しい靴とのローテーションを提案。男性は前向きに、再度就職活動にチャレンジするのです。

 合わない靴は靴擦れ、外反母趾など足のトラブルになりやすくなるほか、腰の痛みやバランス感覚を狂わせ、体全体の不調を引き起こすこともあります。足は超優秀なセンサーの役割を果たすとともに、体を支える土台。足の疾病予防の観点から、ぴたりと合う靴を提案することもシューフィッターに求められています。正しい靴を履いて正しい姿勢をキープすることで、現在、未来の健康と快適さをサポートしているのです。

「靴理人」で知る、シューフィッターあるある!? 

・靴は何度か履くうちに履きグセがつくため、靴の貸し借りは勧めない。別の靴の様に履き心地が変わってしまうこともあるのだとか
・ストレートチップの靴を磨くときは、切り返しより先の部分を磨くことで相手に対する敬意、それより後ろの自分よりの部分をマット(艶消し)に仕上げることで謙遜を表す
・足の甲が高い人は、靴紐が緩みやすい通し方、逆に緩みにくい通し方など、足に合わせた結び方をするとほどけにくい
・相手の話をよく聞きながら靴を仕立てていくという「bespoke」が、注文という意味で使われている

シューフィッターになるには

 「足と靴と健康協議会」主催のシューフィッターの資格は、3段階あります。初級の「プライマリー」は、接客など靴に関する仕事に3年以上従事すること、1年間のうちに50人分の足型を提出するという二つの条件をクリアして受験資格を得ることができます。その後、調整用パッドなどを用いて、快適な歩行のための靴内の調整をする上位資格の「バチュラー」、靴型を作成し完成させる最上級の「マスター」とレベルを上げていきます。