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「コロナ危機の政治」書評 業務処理力と分権に構造的問題

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2021年01月30日
コロナ危機の政治 安倍政権vs.知事 (中公新書) 著者:竹中治堅 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121026200
発売⽇: 2020/11/24
サイズ: 18cm/356p

コロナ危機の政治 [著]竹中治堅

 1994年の政治改革以来、首相の指導力は格段に高まったとされる。選挙制度改革、省庁再編、公務員制度改革などにより、与党と官庁への強い人事権を手にした官邸に対し、むしろそれをいかに制約するか、という議論も少なくない。
 もちろん、それだけの指導力を持った首相が、権限を行使して政策課題に十分に取り組んでいるかは別問題である。現在では特にコロナ危機への対応が問題となる。安倍晋三前首相や菅義偉首相のコロナ対策について、多くの批判が寄せられていることは言うまでもない。強いリーダーシップを持ったはずの日本の首相は、なぜこれほどに対応に苦慮するのか。そこにある構造的な要因を探ったのが本書である。
 著者はこの問題を検討するにあたって、公開資料だけでなく、関係者へのインタビューをしている。各当事者はいかなる思いを持って行動したのか。そこにいかなる思惑や当惑、あるいは摩擦があったのか。この本を読むと、コロナ危機の過程を振り返ることができるだけでなく、そこで進行した政治の動きがわかる。
 著者が強調するのはまず、PCR検査、医療機関、保健所、検疫所などのキャパシティー(業務の処理力)問題である。日本における感染拡大の過程で、このいずれのキャパシティーも不足し、それが首相や地方公共団体の選択肢を大幅に狭めた。この問題は今日なお続いており、その理由を含め、今後の重要な検討課題であろう。
 本書がさらに指摘するのが、首相と都道府県知事の食い違いである。地方分権改革の結果、具体的な対策・立案を担う首長の権限が大きくなっている。知事との間で適切な連携が取れなければ、首相の指導力は大きく後退することになる。ここには政治改革と地方分権改革の整合性を含め、制度的な要因が見いだせる。
 コロナ危機は、同時に政治の危機であることを忘れてはならないだろう。
    ◇
たけなか・はるかた 1971年生まれ。政策研究大学院大教授。著書に『参議院とは何か』『首相支配』など。