 |
|
真梨幸子さん
|
ケシ粒状の突起が浮いた表紙の手触りを一瞬、いやだな、と。心身をむしばむ寄生虫の登場も、この魔の虫を人に橋渡しするセックスシーンも苦手、と思った。それが、頼まれたわけでもないのに読み切ってしまったのは、つまり、うまいからだ。
高級マンションで何不自由なく暮らす主婦が、夫や娘が不在の時間帯には娼婦(しょうふ)に変わる。フィットネスクラブにでも通う感覚で、妹名義のボロアパートにでかけては、曜日ごとに違う男の子と交わる。その周辺に、やがて相次ぐ奇怪な死。そして彼女は、手記風の小説を残し姿を消した……。
一見、穏やかな日常に横たわる生い立ちの秘密や、好人物の顔をした隣人たちの嫉妬(しっと)や悪意を鮮やかに描き、物語を意外な結末にもっていく構成が、実に巧みだ。
「普通の会社に10年以上、勤めました。頑張って自分をごまかしてたんです。でも爆発した。人間の存在そのものをミステリアスだと思い、お化けよりも人間が怖いくせに、そういう人間の謎が好きな自分を生かせるのは、やはり作家しかない、と覚悟を固めて」独立。フリーのテクニカルライターとして生計をたてつつ新人賞に投稿を重ねて、丸5年になる。
「孤虫という寄生虫をたまたま知ったのは、99年。親虫も不明、どう成長するのかもわからない特異なライフサイクルに興味をもちました。面白い、何か書けると思いました。寄生虫の本を集めて調べ、書き出したんだけど」。だんだんからだがかゆくなり、これはたまらない、と未完のままフロッピーに閉じこめたのが本作の原型である。その封印を、解いた。「なぜか、今なら形にできると感じたんです」。改稿してメフィスト賞に応募して受賞、エンターテインメント作家への門をくぐった。