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木村元彦(きむら・ゆきひこ)さん
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憤怒の書だ。99年、ユーゴスラビア(現セルビア・モンテネグロ)のコソボ紛争に際して行われた北大西洋条約機構(NATO)による空爆。しかし、9・11テロなどで、その後コソボ問題は私たちの視界から消えていった。空爆はかの地に平和をもたらしたのか。6年間現地に足を運び続けて書き上げたこの本が、その答えだ。
当時、セルビア側がアルバニア系住民を追い出す「民族浄化」が問題視された。それが空爆を境にアルバニア系軍事組織を中心とした民族主義者によるセルビア系住民に対する迫害へと反転した。「コソボの州都プリシュティナでは20万人いたセルビア人が今ではたった38人。民族問題からマイノリティー問題へと転化しています」。拉致されたとみられるセルビア系民間人の行方不明者は実に3000人以上。NATO主体の国際治安部隊の駐留下で起きた人道上の問題なのに、真相は究明されていない。
大量の難民の発生、撃ち込まれたまま放置された劣化ウラン弾……。「空爆の時、その正当性や効果を疑問視する声はほとんどなかった。だから意地でも実態を書いてやろう、と思って」。セルビアびいきではない。親米・反米の図式でのとらえ方にもくみしない。複雑に入り組んだ現地事情を見てきたがゆえの取材姿勢だ。
ノンフィクションライターとして民族問題を追ってきた。ユーゴとの縁は97年、Jリーグで活躍していたドラガン・ストイコビッチにベオグラードで会った時からだ。
突破口はあるのか。アルバニア人の中にも「罪を犯さなかったセルビア人はいつでもコソボに戻ってくるべきだ」と語る人がいた。ここに可能性を見る。「個人個人の顔の見える関係から風穴をあけられるはずです」。憤怒のジャーナリストは、それでも絶望することなく前を見つめている。