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坂田藤十郎さん
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■生まれ変わって力もらう
歌舞伎役者の「襲名」とは不思議だ。父祖の古い名前を継ぐことで、役者本人も、その名前も新しい生命を得る。ましてこの場合は、二百数十年絶えて、歴史上の名前だった。
「こういう襲名は初めてです」と語る、昨年まで中村鴈治郎だった坂田藤十郎(さかた・とうじゅうろう)さんは、もうすっかり坂田藤十郎で、「生まれ変われているのですね。それをお客様もプラスに感じてくださるらしく、客席からの視線、波動みたいなものがすごくて、それが一番うれしい」と、目を輝かせるのである。
「全開坂田藤十郎宣言」ともいうべきこの本では、役者としての半生も率直に振り返っている。「扇雀」時代の戦後間もなく、故・武智鉄二氏の考えで英才教育を受けたことも。基礎をしっかりさせねばと考えたらしいのだが、教わった教授陣の顔ぶれがすごい。文楽の豊竹山城少掾(しょうじょう)、能の桜間道雄、京舞の四世井上八千代……。「すばらしい先輩方でしたね。一番うらやましがったのは、うちの父(二世鴈治郎)ですよ」
まさに、上方の芸の至高を伝えてきた面々である。自身の藤十郎襲名もまた、「上方歌舞伎」の存在を強く発信したい、との思いからだ。
「上方と江戸と、両方が隆盛になってこそ、本当の歌舞伎隆盛と言えるんじゃないでしょうか」
先ごろ大阪であった襲名公演では「京鹿子娘道成寺」のせりふを京訛(なま)りに変えたという。その一事を変えることも歌舞伎では大変なことなのだが、ふと、そんな気になったと語る。「鴈治郎だとやらないでしょうね。伝統の根本は変えてはいけませんが、せっかく歌舞伎役者なんですから、試みてみてもいいでしょう」
それも名前がくれる力。なにしろ「この本、自分でも読み返すたび、元気になる」そうなのだ。