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著者に会いたい

蟹と彼と私 荻野アンナさん

[掲載]2007年09月23日
[文]堀田あゆみ [写真]佐々木薫

■「彼のがん」とペンで闘った

 「やっぱり、このポーズかな」

写真荻野アンナさん(50)

 芸能人の婚約発表会見のように、立て爪(づめ)に一粒ダイヤの指輪をかざした。贈り主はタイトルの「彼」のモデル。結婚はしないまま15年。「蟹(かに)=がん細胞」に彼が冒されたとわかってから亡くなるまで、「いちばん密に過ごした」1年2カ月を、荻野(おぎの)アンナさんはこの小説に凝縮させた。

 「真っ赤なポルシェの赤血球でドライブしない?」「予定があるの」「がーん」。がん細胞同士の落語のような掛け合い。看病の合間に逃れるように出かける銭湯で、ひっそり湯船につかる河童(かっぱ)。荒唐無稽(こうとうむけい)な設定と得意のダジャレが、手術、退院、転移、抗がん剤の連打と息詰まる闘病の日々のまにまに挟み込まれ、イメージ豊かに作品世界を紡ぐ。

 「重いテーマほど軽やかに扱う。これはルネサンスの精神。おこがましいことをいえばエッセーのモンテーニュと、壮大なホラ話のラブレーを同時にやりたかった。現実に近いエッセーすれすれのリアリズムと、ぶっ飛んだ幻想。実際の闘病でもがんに負けまいとしたように、小説でも素材としてのがんに負けたくなかった。これはペンでの闘いでした」

 蟹の噴く泡のように増殖するがん細胞。それが「つかず離れず」の二人をかつてないほど「確かな絆(きずな)」で結び、同時に永遠に分かとうとする不条理。「人は、生まれたので死ぬ」。簡潔な一文が胸に迫る。最愛の人を失いつつあるとき、この真理を、何があれば受け入れられるのだろう。

 闘病中に文芸誌で連載を開始、亡くなったときも休まず書き継いだ。「どんなにへろへろでも、書けば現実を客観視できる。書くことが救いでした」。原稿を真っ先に読んだのは、存命中は彼。文芸編集者だが、それまで一緒の仕事は避けてきた。「これが彼との最初で最後の小説です」

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