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孤塁の名人 合気を極めた男・佐川幸義 津本陽さん

[掲載]2008年5月11日

  • [文]西秀治 [写真]東川哲也

写真津本陽さん(79)

■まるで魔法の武術を記録に

 「要するに魔法なんですよ」。98年に95歳で亡くなった大東流合気柔術の達人・佐川幸義さんの技を初めて見た日のことを、津本陽(つもとよう)さんは鮮烈に覚えている。

 佐川さんが85歳のとき、東京都小平市の道場を訪ねた。「巨漢がかかっていくんだけれども、バーンと吹っ飛ばされる。この世に、こんなことができる人間がいるはずがないと恐怖を感じた」

 その日に、佐川さんから「君は門人になりなさい。私の小説を書きなさい」と言われた。佐川さんはかつて、テレビの取材申し込みを「武道に関係のない人が押し寄せて、稽古(けいこ)ができなくなる」と断ったことがあった。津本さんは剣道の有段者で、武人としての心を持っていることを気に入ってくれたようだった。

 けれども「書けない」と思った。「なぜ人間がこんなにも投げられるのか分からないんだから」

 3年ほど前、心境が変わった。「民族の神秘的な伝承を記録しておかなければならないという思いが強くなった。先生に投げられたこともあるのだから、この目で見たことだけでも書こうと思ったんです」

 佐川さんの生い立ちや生きざま、合気柔術の源流から現在、未来に加え、自分の体験を織り交ぜた。小説とノンフィクションが融合した、これまであまり書いたことがない形式の本になった。手の届かない異次元の世界の武術を守っている姿から、「孤塁」という題名が浮かんだ。

 宮本武蔵などの剣豪小説、西郷隆盛や吉田松陰といった歴史上の偉人を描いた作品が多数。今回の佐川さんの人物像を「全然、異質。規範を逸脱していますよ」と語る。

 佐川さんの死去から10年。「武術を極めた、類を見ない日本人がいたことを多くの人に知ってほしいんです」

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