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◆作家・市川拓司さん
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◆女優・大河内奈々子さん
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『いま、会いにゆきます』で女性たちの心をしっかりつかんだ純愛ブームの旗手、市川拓司さんと、注目の女優でかつ無類の読書家、大河内奈々子さんの「どっぷり浸った恋愛対談」の後編です。
<大河内> 最近は小池真理子さんの『水の翼』を読みました。版画家の先生と結婚して、先生にはお弟子さんがいて……という話。女の人の心の波がくわしく描かれているし、ひわいな部分も女性特有の描き方ですごく面白かったです。版画が色っぽく感じた本でした。
<市川> ひわいといえば、男性特有のひわいなものもありますよ。ニコルソン・ベイカーの『フェルマータ』は、時間を止めることのできる男の人が出てきます。彼は時を止めている間に女性の服を脱がせていくんですよ。服のしわを全部記憶して脱がして、触らずにただ見て、しわの通りに戻して、本人が気づかないようにする。
<大河内> おかしい!
<市川> あの主人公は僕の仲間だと思いましたね、未成熟な部分が。小池真理子さんのような大人の官能の世界ではなくて、第二次性徴期を迎えて、異性に興味を持った頃の少年の感覚を持ち続けている四十男の話(笑)。
<大河内> ぜひ、読んでみようと思います。
◆作家よりも題材で◆
<市川> 大河内さんは、特に好きな作家さんはいるんですか?
<大河内> 私は作家さんではなくて、題材で読んでいきます。不倫ものをずっと読んだり、ピュアな恋愛ものばかり読んだり。Aさんという作家はこう書いているけれど、Bさんは違ったとらえ方で書いている……。そういう感覚がすごく面白いんです。
<市川> それはバランスがいいですね。僕なんかは、ひとり好きな作家を見つけたら、その人の作品をどんどん読んで、コンプリートさせようとします。
<大河内> ああ、そう言われると、私は『赤毛のアン』のシリーズが大好きで、コンプリートしました(笑)。今でもたまに読み返したりするんです。
<市川> アンも恋愛をしますよね。
<大河内> はい、『アンの愛情』あたりで。
<市川> いつもけんかをしていた男の人と。
<大河内> そうそう。女の子ならだれもがわかる強がりや、逆に正直さも描かれていて。自分もこういう気持ちの切り替えが必要なのかな、とか、こういう風なところに目を向けるといいのかな、なんて思って。自分の恋愛観に影響を与えられたかもしれません。
<市川> ニック・ホーンビィも面白い。『ハイ・フィデリティ』も映画化された作品ですが、レコード店を営む主人公が恋人との関係に危機を迎えて、自分の過去の恋愛を振り返っていく。彼の生き方は正直、僕の趣味ではないんですが、ちょっとした言葉の選び方や、好きな女性に自分のベストテンのテープを作ってあげるところとかが、最高に面白い。こんな恋愛は否定したいのに何度も読んでしまう。
<大河内> 逆に、どういう恋愛が好きなんですか?
<市川> 僕は一途な男が出てくると弱い。映画にもなったニコラス・スパークスの『きみに読む物語』を読んで、ボロボロ泣きました。このせりふが泣かせる、といったキーワードはないのに、じわじわきます。おじいさんが記憶をなくした奥さんに、昔の幸せな時代を語りかけている場面は切ない。
<大河内> その作品は、私も気になっていました。
<市川> 同じ作者の『メッセージ・イン・ア・ボトル』も読みました。
<大河内> 私も読みました! すごくすてきなお話で。女性のほうは静けさの中に強さを秘めていて、男性のほうは少年の心を残していて、成長がストップしている感覚があって。でもそれすらも受け止めて、お互いに成長していく。自分もそんな風に成長していきたいなと思いました。
◆本には「時間」がある◆
<市川> あとは、最近では、恋愛とは少し違うけれど、ジェフリー・ユージェニデスの『ミドルセックス』が面白かった。映画『ヴァージン・スーサイド』の原作者です。
<大河内> ああ、『ヴァージン・スーサイド』は映画を観て、これは読まなくちゃと思って原作も読みました。『ミドルセックス』はどんなお話なんですか。
<市川> 女の子として生まれた子が、14歳になったらいつのまにか男の子になっていたという、両性具有の話なんです。性の目覚めを延々と書いている小説なんですが、これは傑作ですよ。
<大河内> それも面白そう。おうかがいしていると、映画化されたものが多いですね。
<市川> 映画も原作もどちらでもいいんでしょうが、小説のほうが、ある意味、登場人物たちの内面がきちんと描かれている。本は掘り下げる暇というか、余裕があるからでしょうね。
<大河内> 映画はひとつのシーンが終わったらすぐ次のシーンへいくので目が離せない。でも、本だと一言のせりふに心がとらえられたら、そこで立ち止まれる。そのフレーズを自分の中で響かせる時間があって、それがすごく幸せなひとときになりますね。
<市川> 描く側としても意識していて、時間のスピードを変えるんですよ。10秒くらいのことを原稿用紙10枚に延ばしたりします。
<大河内> 人は大事な瞬間には感覚が鋭敏になりますものね。
<市川> そうそう。初めて女の子と手をつないだ時とか……。
<大河内> もう、全神経が手のところに集まりますよね(笑)!
<市川> 一瞬のことが果てしなかったりと、時間の感覚が狂うでしょう。そこをはしょってはいけないんだと思います。センチメンタルな場面を膨らませると、小説としては評判が悪かったりする。でも、誰かが小説について「涙がとめどなく流れた体験をはしょってしまったら、真実はどこにあるのだろう」と言っていて。時間的な尺度が濃縮された貴重な10秒があるならば、そこを描くことが、真実を描くことになるのかな、と僕は思っています。
<大河内> だから、市川さんの作品は、浸りたいところで浸らせてくれるんですね。
◆漫画も大好きです◆
<市川> あと、僕は恋愛を描いた漫画が好きですね。海野つなみさんの『回転銀河』とか、犬上すくねさんとか。ひたすらいちゃいちゃしている夫婦やカップルが描かれていて、人から見るとたわいなく思われることが描かれているのが好きなんですよね。伊藤理佐さんの『チューネン娘。』も適齢期の女の人が恋をする話で、面白い。
<大河内> 私も漫画は大好きです。中高生くらいの時には、一条ゆかりさんの描く大人の恋愛ものを夢中になって読みました。
<市川> 『砂の城』なんかは僕も読みましたね。
<大河内> 面白かったですよね! あと、『うそつきな唇』とか。
<市川> それもよかった。一条ゆかりさんはめちゃくちゃうまいですよね。絵もわかりやすいし、ストーリーが映画のようにかっちり組まれていて、漫画をそのまま映画化しても大丈夫なくらい。
<大河内> わかります。
<市川> 僕が最近ハマっているのは、岩館真理子さんの『アマリリス』。花屋さんの女の子が主人公で、コメディーで、すごく面白い。すれ違いだらけの恋愛で、ゲラゲラ笑いながら読んでいます。
<大河内> たくさんお読みになっているんですね。
<市川> カップルを見ているのが好きなんです。それも、夜の渋谷のカップルではなくて、公園のカップルを見るのが。
<大河内> お日様がある時のカップルはいいですよね。日がかげった頃のカップルは訳ありの感じがします(笑)。
<市川> 道玄坂に消えていくような2人はね(笑)。僕は、現実世界ではできない、のぞき見的な感覚を味わえるところが好きなのかもしれない。こういう事情で2人は一緒になったんだとか、この先2人はくっつくことになっているとか、一種の神の視点で先を知る面白さ、ドキドキする楽しさがあります。
<大河内> 小説も、漫画も、プロセスが客観的に見えることも楽しいですよね。書き手としては、これからも恋愛を描いていかれるのですか。
<市川> 今書いているのは、女性の一人称の話。冗舌な、20歳前後の文学少女です。
<大河内> そういう子がどんな恋愛をするのかも、読んでみたい。市川さんの小説のような、いい本に出会えるということは、自分の財産になります。もう、声を大にして「市川さんの本は読んだほうがいいよ」と、皆さんに教えてあげたいです。
<市川> どうもありがとうございます。
<大河内> 今日はお会いできてうれしかったです。