舞台は江戸、廻船(かいせん)問屋兼薬種問屋・長崎屋の跡取り息子の「若だんな」こと一太郎は、体が弱くて伏せりがち。心配する親や手代の甘やかしぶりや気遣いときたら並大抵じゃない。でもそんな環境にあっても、若だんなは意外としっかり者。何より彼には、妖怪が見えて話ができる特別な力があった——。
そんな設定で、ミステリー仕立てのストーリーが展開する時代物『しゃばけ』シリーズの5作目となるのが本書。01年度の日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した『しゃばけ』以来、同シリーズでは久しぶりとなる丸々一冊の長編だ。
地震の続く江戸から、箱根へと湯治に出かけた若だんな。誘拐されたり天狗(てんぐ)に襲われたり、さんざんな目に遭いながら、しかし人間たち、そして人間ならざる者たちの抱える思いや悩みを、解決へと導いていく。
担当編集者の郡司裕子さんによると、病弱な主人公の活躍に励まされる読者がいる一方、妖怪に猫かわいがりされ、逆に彼らをいたわる様子が、「自分もそんな仲間がほしい」という共感を呼んでいるそうだ。「殺伐としたフィクションと違って温かい気持ちになる、ほっこりした気分に浸れる、というお便りを多くもらっています」
主力読者は20〜40代の女性だが、ファンの幅は「はがきを見ると、下は9歳から上は87歳」と4世代にまたがる。
シリーズは2作目まで文庫化されており、それらも含めたトータル部数は約70万部。「単行本の部数は、新作になるほど増える傾向です」と郡司さん。ネットではファンによるサイトも多く作られており、読者が読者を広げる構造が生まれているらしい。