[掲載]2009年11月1日
■普通の人々の極上の群像劇
著者の初期の代表作『最悪』『邪魔』(ともに講談社文庫)のファンなら、この二字熟語のタイトルを見て「またあのテイストが味わえる!」と興奮したのでは(私もその一人)。前2作同様、ごく普通の人々がにっちもさっちもいかない状況に追い詰められていく様が、圧倒的な心理描写によって描かれる極上の群像劇だ。
舞台は架空の地方都市「ゆめの」。ここに暮らす5人の男女の人生が「もう無理!」と叫びたくなる方向へ転がり落ちていく。が、雑誌連載時のタイトルは「ゆめの」だった。担当編集者の別宮ユリアさんによると「著者自身は、作品の路線は意識していない様子。ただ、連載を読むうちにこれは『最悪』や『邪魔』の世界観につながると思い、それらを連想できるタイトルに、と提案しました」。そして強気の初版7万部。売れ行きは好調だ。
読者からは「これは私の出身地の話ではないか」という声が多く聞かれるという。個人商店がつぶれ、大型商業施設ができた「ゆめの」の光景は、今や各地で見られるのだ。生活保護の不正受給、老人をターゲットにした悪徳商法、引きこもりに拉致監禁、利権構造に絡め取られた世襲政治、新興宗教……。ここには現代の地方都市が抱える諸問題がぎっしりと詰め込まれている。それに直面した人々が抱くのは閉塞(へいそく)感や焦燥感だけでなく、自分だけは幸せになりたいというワガママな感情。しかしどんなに勝手な主張にも、言下に否定できない部分がある。人間の醜悪さを描くというよりも、声なき人々の言い分に耳を傾けようとする作者の姿勢があるからだ。
ただ息苦しいだけではない。クライマックスでは人間の滑稽(こっけい)味、図太(ずぶと)さが噴出して、思わず笑ってしまう。しょせん人間ってこんなもの、と思わせるところに爽快(そうかい)感と救いがある。それが奥田流群像劇の、最大の醍醐味(だいごみ)だ。
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初版7万部
著者:奥田 英朗
出版社:文藝春秋 価格:¥ 1,995
著者:奥田 英朗
出版社:講談社 価格:¥ 920
著者:奥田 英朗
出版社:講談社 価格:¥ 660
著者:奥田 英朗
出版社:講談社 価格:¥ 660
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