ぼくどうして涙がでるの [著]伊藤文学

2013年12月18日

■心臓病を持つ妹、そして子どもと著者との心温まる交流を描く

 事実は小説より奇なり、という。東京女子医大の心臓病棟に入院した著者の妹、紀子の人生はまさに格言通りの歩みであった。20歳で心臓に強烈な痛みが走り、生死に関わる僧帽弁閉鎖不全症と診断されたものの、1年間待たされ、ようやく手術を受けて、「地獄の底からはいあがって、元のベッドにもどってきた」。その闘病中に同じく重症の5歳の坊やと出会い、著者を交えた心温まる交流が始まる。私たちの心を打つのは、真摯(しんし)に生きる患者たちの姿勢だ。題名にもなった5歳の子どもの言葉は手術室に行く直前に発せられた。
 時は昭和30年代。当時、心臓病棟に入院した人たちはお互いに励まし合いながら手術の日を待っていた。著者が妹の闘病生活を朝日新聞の読者投書欄を通じて伝えたところ、大きな反響を呼び、さらに多くの出会いが生まれていった。著者は妹の魂の叫びともいえる日記を紹介しながら、患者同士の出会いと死について淡々とつづる。そして、どれほど辛い体験を経ても、「勇気を出して生きて、生きぬいて下さい」と書き記し、「この現在を大事にしたい」と本書で訴える。

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