人は皆、土に還る [著]曽野綾子

2016年11月24日

畑仕事を通して到達した「お棺は紙箱でよい」という思い

 著者が畑仕事を始めたのは50歳になる少し前。視力が極端に落ちたことがきっかけだった。三浦半島の別荘でも、東京の自宅でも、それぞれ庭の一部を畑にして種をまくようになった。一時は失明さえ覚悟したものの、手術によって視力が回復して劇的に見えるようになると、ますます積極的に土に親しんだ。野菜を育て、珍しい花を楽しみ、熊本県知事時代の細川護煕氏から贈られたさまざまなミカンの木まで植えた。やがて、著者は間引きや木の刈り込みの大切さを実感し、健全な森を保つにも間伐が必要だと知る。そして、人間も植物と同じで、狭いところに押し込めるのではなく、風通しよくし、それぞれに個性があると知ることが大事だと説く。
 畑仕事を通じて、採りたての野菜や果物のおいしさを知り、親しい人と共に食べるという「人生の営みの基本」を知った。さらに「地球上のあらゆる地点が誰かの墓であるに違いない」「お棺は紙箱でいい」といった、生と死をおおらかに受け止める思索が、ときに聖書の言葉をひきつつ、静かにつづられる。

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