美術鑑定士・安斎洋人 「鳥獣戯画」空白の絵巻 [著]中村啓

2016年12月28日

国宝の絵巻をめぐる謎と真実に天才鑑定士が挑む!

 上質のミステリーは読み手に至福の時間をもたらす。『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞した著者による書き下ろしは、国宝「鳥獣戯画」をめぐる陰謀を描いた秀作だ。長い絵巻から抜け落ちた「断簡」と呼ばれる一部が京都の松老寺で発見され、日本中がその真贋(しんがん)に注目する。最初に鑑定した日本美術界の重鎮が謎の転落死を遂げた後、オークションにかけられた作品を破格な高値で落札したのは老舗化粧品会社オキモトの沖本社長だった。
 一方、有名画家を母に持つ学芸員・安斎洋人は、天性の審美眼で断簡を真作と見抜く。しかし同時に言い知れぬ違和感を覚えた。その後、関係した人が、次々に謎の死を遂げ、警察は安斎に協力を要請する。
 果たして安斎の覚えた違和感は絵巻の真実を明らかにし、犯人を特定することができるのか。過去の複雑な人間関係のなかで安斎自身が心の奥底に抱えてきた悩みを伏線に、息もつかせぬ展開が飽きさせない。とりわけ事件が解決に向かう最後の場面は迫力に満ちている。シリーズ化を期待したいミステリーといえるだろう。

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