江戸の乳と子ども―いのちをつなぐ [著]沢山美果子

2017年03月23日

「乳」を中心に江戸をひも解きいのちのネットワークを探る

 私たちは「乳」イコール母乳と考えがちな時代に生きている。しかし、著者によれば、粉ミルクなどない江戸時代、乳が出ないときに農民は村落共同体のネットワークの中で「貰(もら)い乳」をした。乳母を雇う町人もいたし、里子に出す武士もいた。生活のために「乳持ち奉公」に出る女性もいた。「乳」は赤ちゃんの命綱であっただけに、さまざまな知恵と工夫を通じ、子育てネットワークも形成されたのである。著者は江戸時代の日記史料群、井原西鶴の作品などを丹念に読み解く。そして、授乳にとどまることのない江戸時代における「乳」の多義性を明らかにする。
 副題に「いのちをつなぐ」とあるが、子どものみならず、そこに生きた女性や家族、社会など、人々の息づかいが行間から浮かび上がる。「江戸の乳と子ども」の実像が見えてくるのである。加えて、かつての共同体の絆が希薄となり、とかく母親が孤立しがちの現代において、本書は子育てにかかわる多くの課題を解決するための示唆を与えてくれる。「一人ひとりのいのちが人と人との関係性の中に存在している」という言葉が心に響く。

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