人生の選択―いいものだけを選ぶことはできない [著]曽野綾子

2017年04月27日

「まえがき」と「あとがき」からたどる著者の生き方と信念

 作家歴65年の著者は、言わずと知れた文壇の重鎮である。本書は、これまでに発表された膨大な著書の中から「まえがき」と「あとがき」だけをよりすぐって編集した稀有(けう)な本である。各編とも、すぐれたエッセーを読むように興趣に富んでいる。それは著者の名文もさることながら、信条にぶれが見られないからだろう。
 全編に背骨のように通っているのは、「この世に完全などない」という観念である。闇があるから光を感じることができるのだと著者はいう。大切なことは、白か黒かを決めたがる既成の価値観に流されず、自分なりの選択をし続けられるかどうかである。であるから、人や社会のネガティブな部分に蓋(ふた)をする教育に異を唱え、甘い理想論を振りかざす人々を批判するのだろう。本書には幼少期の家庭環境や30代で陥ったうつ体験、50代で視力を失いそうになった危機が自然体でつづられている。また、アラブやアフリカ諸国を旅して見聞きした過酷な現実も記されている。にもかかわらず、全てに共通するのは「この世に完全などない」という揺るぎない決意にほかならない。

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