熱帯雨林のはざまにて [著]渡辺陽子

2017年04月27日

戦前の混乱期、南方の国際社会で懸命に生きた女性たち

 戦前の東南アジアでは、日本資本のプランテーション展開が相次いだ。故郷を後に海を渡ったのは男性だけではなかった。本書は自分の信じる道を懸命に生きた女性たちが躍動する壮大な物語であり、ゴム農園支配人の妻の視点で描かれている。
 九州の小さな町で生まれ育った蝶子は、18歳で兄の友人に嫁ぐ。新生活の舞台はマレー半島。プランテーション開拓の最前線である。ほどなくして2人の子どもに恵まれ、幸せな生活を送る蝶子だが、心の底には自覚のない鬱屈(うっくつ)がたまっていた。その理由のひとつは、故郷の親友キヌの行方が知れなくなったこと。当時、世界的な大不況の波は日本の地方社会にも押し寄せていた。実家が没落したキヌは、花街に売られたようなのだ。一方で、新しい時代の到来を思わせる女性たちとの出会いによって、蝶子の目は社会に向けて開かれていく。新興国・日本に対する欧米の厳しいまなざしや人身売買の現実、人権運動の高まりといった時代の空気を色濃く反映した作品である。繊細な心理描写や、自然を描く躍動感あふれる筆致に引き込まれ、一気読みすること間違いない。

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