無明長夜―娼婦その子 ひとり語り [著]大島扶美代

2017年05月25日

昭和の夜に花咲いた女性の喜怒哀楽を織りなした人生

 いまの時代、娼婦(しょうふ)という言葉には古色蒼然(そうぜん)の響きがある。吉行淳之介や永井荷風の作品を読むように、過ぎ去った時代の陰の部分に一種のノスタルジーを感じるかもしれない。しかし、元娼婦の日記の形式でつづられた本書は、男性の視点で描いた文学作品とは一線を画す娼婦像を明らかにする。
 83歳のその子は、かつては盛り場の路上に立つ女であった。引退して小さな家を構え、占い師として平穏な日々を送る彼女の胸に去来するのは過去の日々。転落の人生というよりは、流れ流されて身を売るようになり、そんな自分を客観的に見ていたもうひとりの自分がいた。後悔はしていないが、過去は容赦なく現在に侵入してくる。そんなその子の元に、住みこみのお手伝いとしてかつ代がやってくる。若くない女ふたりの同居生活が、ほのかな希望を感じさせて日記は終わる。著者は、昭和30年代から40年代にかけて、現役の娼婦と交流を深めてきた経歴を持つ。その子を通して、娼婦という一面的な偶像ではなく、強い存在感を放つひとりの女性の「多色を溶いたパレットのような人生」を描ききっている。

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