あの人の宝物―人生の起点となった大切なもの。16の物語 [著]大平一枝

2017年05月25日

いつまでも大切にしてきたものが語る仕事と人生

 「あなたの心の支えとなった宝物はなんですか?」。この言葉を入り口に、独創性の高い仕事をしている16人に聞いたインタビュー集である。登場するのは、田村セツコ、吉沢久子、江上栄子、春風亭一之輔……、活躍する分野は違っても、自らの価値観を貫いてきた人たちばかりだ。宝物の話はすなわち、その人の仕事観や生き方に通じる。たとえば、児童文学作家の松岡享子さんの宝物は、中学生時代に友人と手づくりした人形の家のための小物。戦後の物がない時代に、きれいな包装紙やロウで食器や食べ物を夢中になってつくったのだという。半世紀以上を超えて大切にされてきた小物の写真と、子どもの心を明るく照らしてきた松岡さんの半生が交差し、幸福な読書の時間が流れていく。
 16人に共通するのは、発想がしなやかでみずみずしい感性の持ち主であること。ささいなことにも幸せを感じられること。感謝の思いが強いこと。読んでいるうちに心の奥の灯(ともしび)が輝きだす。夢を追う最中にある人には、心が楽になる処方箋(せん)のような本である。円熟期に入った人は、自分の体験を重ねあわせて深く共感するだろう。

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