極上の人生―人生を楽しむ四つの美学 [著]辰濃和男

2017年06月29日

極上の人生―人生を楽しむ四つの美学

ていねいにゆっくりと、今を味わって生きる

 1980年代の朝日新聞「天声人語」の名コラムニストとして一世を風靡(ふうび)した名文家による極上のエッセー集。物質にとらわれ、魂のこもらない速さを重視し、感謝を忘れている現代人に、ちょっと立ち止まって今を生きることの大切さを説く。心を満たして日々の暮らしを味わうための道しるべとして、著者は「無心の美学」「ゆとりの美学」「懶(ものう)さの美学」「隠(こも)りの美学」という四つの美学を提案する。無心は自我を離れた感謝の心。四国遍路で出会ったおばあさんは、疲れ果てた著者に温かい言葉とともに数百円を渡して手を合わせた。その経験を通して、著者の祈りはなにかを願うためから、なにかに感謝をささげるためへと変わっていく。
 懶さは、著者が好きだという「ぼんやり」や「のんびり」「ぶらぶら」の時間。忙しい時はあえてぼんやりするのだという。ぼんやりしている時間が長いと頭がカラッポになる。カラッポになると草や木や風や空の様子に敏感になる。「草花の生きようとする力に驚きの心を持つこと、それが私たちの生きる力になる」。どの一編をとっても、胸にしみる言葉がある。読み進めるうちに心が潤ってくる。

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