〈マンガ今昔物語〉第79回 「人面動物」の恐怖!

2017年03月15日

 映画化もされた直木賞作家・姫野カオルコの問題作『受難』は、清純な乙女フランチェス子の股間に人面瘡(じんめんそう)ができるという振り切った設定で話題を呼んだ。彼女はドSな人面瘡を「古賀さん」と名付けて共同生活を始めるが、なぜ古賀さんかというと、幼いころに読んだ人面瘡マンガ『のろいの顔がチチチとまた呼ぶ』の作者が古賀新一だったから!
 この作品が「週刊マーガレット」で連載されたのは半世紀も昔のこと。長いこと入手困難なホラーマンガの古典だったが、キンドル化されて簡単に読めるようになった。ヒロインの愛子は海辺で身投げしようとしていた少女を助けたことで、「チチチ」と鳴き、トカゲやクモを食べる不気味な人面瘡に取りつかれる。生理的におぞましさを感じる物語で、トラウマになった少女も多かっただろう。古賀新一といえば70年代の『エコエコアザラク』の印象が強い世代としては、60年代の少女マンガタッチが何とも新鮮だ。
 自分の体にできる“人面”も怖いが、動物の顔が“人面”になるのも怖い。現在、「サンデーうぇぶり」連載中の『ジンメン』(カトウタカヒロ)には多くの人面動物が登場。彼らは人面瘡と同じく言葉を話し、さらに明確な殺意を持って人間を襲うのだ!
 マサトは7年ぶりに故郷に帰ってきた動物好きの高校生。幼なじみのヒトミと久しぶりに「不二サファリワールド」を訪れた日、恐るべき事態が発生した。園内の動物たちが人間の顔を持ち、次々と人間を虐殺。彼らは「ジンメン」と名乗り、突然できた深い溝によって孤立した不二山一帯に「動物公国」を樹立しようとする。
 動物たちの人面化の原因は園長が毎月行っていた健康診断だったらしい。そこで何が行われていたのか? マサトたちと行動をともにする飼育員の中田は本当に信用できるのか? 象のハナヨはなぜ中田の顔になったのか? 多くの死傷者が出ているのに、政府はなぜそれを隠すのか? マサトの体に起きたかすかな異変が意味するものとは? 多くの謎と伏線が散りばめられ、読み始めると止まらないアニマル・パニック・ホラーだ。
作者はこれがデビュー作となる新人。ややクセのある絵も効果的で、人面動物たちの不気味さに拍車をかけている。完全に人間にはなっておらず、どこかユーモラスな顔が実に気持ち悪くていい。
ところで平成生まれのキミ、「人面犬」って知ってる?
    ◇
古賀新一『のろいの顔がチチチとまた呼ぶ Kindle版』全1巻(Beaglee) 1967年開始
カトウタカヒロ『ジンメン』既刊2巻(小学館) 2016年開始

プロフィール

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伊藤 和弘

1967年、新潟県生まれ。新潟大学法学部卒業。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。99年から朝日新聞「コミック・ブレーク」で、インタビューと作品解説を担当する。著書に『少年マガジン伝説』(電子書籍)、『男こそアンチエイジング』(日経BP社)がある。
Twitter:@itokazraita
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