〈マンガ今昔物語〉第80回 巨匠・永井豪が大暴走!

2017年04月19日

 このところ、昭和に活躍した大御所による自伝マンガをよく目にする。「週刊漫画ゴラク」で永井豪が2010年から連載している『激マン!』もそのひとつだが、最新作「キューティーハニー編」には驚いた。マンガ家が半ばギャグで若き日の自分をイケメンに描くことは珍しくない。ところが、本作はなんと女性化! あの『キューティーハニー』の作者として登場するのは、過激なお色気描写で世間を騒がす“永居香激”という美人マンガ家なのだ!
 この香激先生が、いかにも永井豪らしい明るい露出狂の女性キャラとなっている。ミニスカートにノーパンで街を歩き、スタッフとの打合せには全裸で出席、その席で放尿までしてしまう! 本人だけではない。マネージャーだった弟の永井隆や、石川賢をはじめとするスタッフたちも全員女性化! 昔から悪ノリが好きな永井豪だが、本作はもはや“暴走”と呼ぶのがふさわしい。
 一方で自伝マンガの要素もしっかり押さえられている。もともと「七変化する美少女ヒロイン」という企画は東映動画から持ち込まれたこと、『マジンガーZ』の移籍で「週刊少年ジャンプ」の怒りを買ったことなども赤裸々に告白。1970年代に「週刊少年チャンピオン」の黄金時代を築いた名編集長・壁村耐三も“壁山鯛三”という変名で登場する。多くの少年を性に目覚めさせ、繰り返し映像化されている傑作『キューティーハニー』がどのように生まれたのか、具体的なエピソードの数々が興味深い。
 作中作として描かれる『キューティーハニー』はオリジナルと微妙に異なるリメーク版だ。時代は2020年の東京オリンピックが終わった近未来。聖チャペル学園のアルフォンヌ先生はアルフォンヌ・シュタインベック、舎監の常似ミハルはミハイル・ツネニーネフ、新聞記者の早見青児はフリーのジャーナリスト兼探偵など細かい変更が多く、(本編がくだけているせいか)オリジナル版のギャグが削られて全体にシリアスになっている。
それにしても、若き日の自分を「ハレンチな美女に変身させる」など、普通のベテラン作家には思いもつかない発想だろう。あまりといえばあまりの悪ノリに眉をひそめるファンも少なくないようだが、ここまでやりたい放題に描かれるとすがすがしい。マンガ家多しといえど、まさに永井豪にしか描けない怪作だ!

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永井豪『キューティーハニー』全2巻(秋田書店)1973年開始
永井豪『激マン!キューティーハニー編』既刊1巻(日本文芸社)2016年開始


プロフィール

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伊藤 和弘

1967年、新潟県生まれ。新潟大学法学部卒業。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。99年から朝日新聞「コミック・ブレーク」で、インタビューと作品解説を担当する。著書に『少年マガジン伝説』(電子書籍)、『男こそアンチエイジング』(日経BP社)がある。
Twitter:@itokazraita
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