〈マンガ今昔物語〉第82回 アルバイトは「人殺し」です!

2017年06月21日

 美少女のガンアクションを描いたマンガは意外に多い。か弱い少女とマッチョな銃器という取り合わせは、好きな人にはたまらないものがあるようだ。おそらく1970年代初頭に連載された『木曜日のリカ』(小池一夫・松森正)辺りが走りだろう。
 タイトルの元ネタは加賀まりこ主演の映画『月曜日のユカ』。美木本(みきもと)リカは木曜放送のテレビ番組に出演しているタレントだが、実は「世界でただひとりノーベル殺人賞をもらった女」としてテロリストやマフィアと戦う“正義の殺し屋”だ。ノーベル殺人賞という奇想天外なフレーズに加え、リカは事後にテロリストを射殺するだけで肝心の犯行は阻止できていないことも多く、改めて読むとツッコミどころも満載。「歩行者天国をゲバった」といった今では意味不明な言い回しや、小池一夫が「ん」をまだカタカナで書いていない(笑)など、随所に時代を感じさせる。
 最近の作品では、ウェブサイト「やわらかスピリッツ」連載中の『バイオレンスアクション』(浅井蓮次・沢田新)が目を引く。
 ケイはデリヘルを装った殺し屋派遣組織「ぷるるん天然娘特急便」で指名ナンバーワンを誇るヒットマン。ゆるふわの外見や性格にもかかわらず、銃、ナイフ、さらに素手でも恐るべき戦闘力を持っている。普段は他人への思いやりにあふれているのに、仕事となると何のためらいもなく人を殺す。昼間は簿記専門学校に通っているが、これはいわゆる表の顔ではない。なにしろ目下の「生きる目的」は日商簿記検定2級合格! 殺しのターゲットの目の前でも、空き時間ができると熱心に簿記の試験勉強を始めるというマジメなんだかイカれているんだか、よくわからない女の子だ(いや、まちがいなくイカれてはいるのだが)。
 本作では「命」が紙切れよりも軽い。ルーチンワークとして日常的に殺人を重ねるケイだけに限らず、殺される側も異様に肝がすわっていて、淡々と己の死を受け入れるアウトローが目立つ。その無感動ぶりは、すぐに泣いたり叫んだりしていた『木曜日のリカ』と対照的。ハードボイルドというレベルを超えて、極限まで乾ききっているのだ。見た目と行動のギャップが大きすぎるケイは、なぜ殺し屋をすることになったのか? その内面にどのような闇を抱えているのか? いろいろと興味が尽きない。

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小池一夫・松森正『木曜日のリカ』全5巻(小池書院) 1971年開始
浅井蓮次・沢田新『バイオレンスアクション』既刊1集(小学館)2016年開始

プロフィール

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伊藤 和弘

1967年、新潟県生まれ。新潟大学法学部卒業。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。99年から朝日新聞「コミック・ブレーク」で、インタビューと作品解説を担当する。著書に『少年マガジン伝説』(電子書籍)、『男こそアンチエイジング』(日経BP社)がある。
Twitter:@itokazraita
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