〈くるり・岸田繁の奇想転外〉ヒナまつり [作]大武政夫

2017年10月18日

岸田繁

『ヒナまつり』1

■『崖の上のポニョ』にあらず“タワマンのLDKのタマゴ”

 大武政夫氏のデビュー作品であり、人気連載である『ヒナまつり』。超能力少女と若手ヤクザが共同生活をしながら、事件を解決したり巻き込まれたりドタバタ劇を繰り広げる。中学校やイクラ丼といった、日常的なモチーフが鍵になっている所がこの作品の魅力だ。ヤクザの世界観は徹底して不条理でとぼけたトーンで描かれ、超能力少女の出自も設定が曖昧(あいまい)である。これらのモチーフと、自由気ままな作風からは少しばかり『崖の上のポニョ』を彷彿(ほうふつ)とさせる。
 超能力少女「ヒナ」のキャラクターが大変魅力的である。クールで強い女性キャラ、あるいは小悪魔的色気で周囲を魅了するキャラはこの手の漫画において定番だが、この物語の主人公「ヒナ」はあくまでも、もう一人の主人公であり若手ヤクザでもある「新田」の「愛娘」的なポジションで描かれており、イクメンの苦悩やシングル・ファーザーのリアルな描写が垣間見える。
 マイノリティーが排除されがちな現代社会、声高に違和感を叫ぶことでは解決しない物事は多い。この作品のように溢(あふ)れかえる不条理を、絶妙な温度感で不条理に笑い飛ばす感覚こそが、とてもモダンでクールな感覚なのかもしれない。

    ◇

きしだ・しげる。京都府生まれ。ロックバンドくるりのフロントマン。作詞作曲の多くを手掛け、多彩な音楽性で映画のサントラ制作、CMやアーティストへの楽曲提供も行う。2016年より京都精華大学の客員教員に就任。京都市交響楽団の依頼を受け、自身初の交響曲「交響曲第一番」を完成。京都での初演プログラムを収録したCDが発売中。

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