〈くるり・岸田繁の奇想転外〉おやすみカラスまた来てね。 [作]いくえみ綾

2017年11月15日

岸田繁

『おやすみカラスまた来てね。』1

(C)いくえみ綾/小学館

■オトナは行きつけのバーのひとつやふたつ持っておくと心が安らぐ

 オトナの社交場であり、心のオアシスでもある「酒場」を舞台に繰り広げられる、いくえみ綾先生の作品。古いバーのマスターの幽霊(!?)の後を継ぐことになった主人公と、彼を取り巻く4人の女性たちとの物語。
 個性溢(あふ)れるキャラクターの巧(たく)みな描き方、物語の始まりからぐいっと引き込まれる深みのある世界観は、流石(さすが)の一言である。寿司(すし)を食べる女性の表情や、舞台である札幌の温度感の描き方など「漫画でしか作り出すことができない美しい表現」に息をのむ。そして「夜の世界」である酒場が、リアルかつ絶妙な温度感で描かれており、作品を読んでいるだけでバーカウンターに腰掛けていると錯覚するほどの説得力がある。ヴィンテージのスコッチや、マティーニなど「古き良き時代」を連想させながらも、優柔不断で捉えどころのない主人公の「ダメ男」っぷりを軽く炙(あぶ)り出す軽快さと不穏さのバランスも見事。温もりのある世界観を作り出す「いくえみワールド」の入門編としても楽しめそうな快作である。

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きしだ・しげる。京都府生まれ。ロックバンドくるりのフロントマン。作詞作曲の多くを手掛け、多彩な音楽性で映画のサントラ制作、CMやアーティストへの楽曲提供も行う。2016年より京都精華大学の客員教員に就任。京都市交響楽団の依頼を受け、自身初の交響曲「交響曲第一番」を完成。京都での初演プログラムを収録したCDが発売中。

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