〈マンガ今昔物語〉第88回 キャラ立ちまくりの女子剣道マンガ!

2017年12月20日

 格闘技の中でも剣道を描いたマンガは多くない。昭和生まれの世代にとって、真っ先に思い浮かぶ作品は『六三四の剣』(村上もとか)だろう。「岩手の虎」こと夏木六三四の幼少期から高校時代までを描いた大河剣道マンガであり、1980年代に全国の少年たちに剣道ブームを巻き起こした名作だ。
 現在、女子高生剣道マンガ『剣姫(けんき)、咲く』(山高守人)が「ヤングエース」で連載されている。『六三四の剣』では岩手の六三四をはじめ、ライバルの修羅(奈良)や日高(鹿児島)も地方在住だったように、『剣姫、咲く』の舞台は作者の出身地である島根県の鶴城高校。天才剣士・戸狩姫咲(とがりきさき)と凡才の草薙諸葉(くさなぎもろは)のダブルヒロインとなっている。中学一年生にして全国大会で優勝し、“開闢(かいびゃく)の剣姫”とうたわれる姫咲に対し、諸葉は小柄で身体能力も低く、何の実績もない。しかし敵の動作をいち早く察知する非凡な観察眼“先見”を姫咲に認められ、一方的に「好敵手(仮)に任命」される。
登場人物はほとんど女子高生で、2巻までに出てきた男性は顧問の教師と「月刊剣道エース」のカメラマンくらいしかいない。そのせいか、天才ならではの傍若無人さと幼児性を持った姫咲をはじめ、主要人物は例外なくキャラが立っている。少年口調(一人称は「ボク」)で話す諸葉、じいさん口調(一人称は「ワシ」!)で話す広島・剣制館学園の火之浦紅緒(ひのうらべにお)など、それぞれのしゃべり方が極めて特徴的なのもわかりやすくていい。
 作者の山高守人はこれがデビュー作となる26歳の新人だ。ただでさえ防具を着けた剣道はマンガで描くのが難しいのに、繊細な美しさと試合場面の迫力を併せ持った絵は完成度が高く、とても新人とは思えない。高校時代は剣道部だったそうで、剣道に関する知識も確か。経験者は知識がある分、リアリティーに縛られて思い切った描写ができなくなりがちだが、本作はケレンの効いたマンガ的演出とリアリティーのバランスが素晴らしい。
スポ根を基本に、萌え、ギャグ、さらに「火」や「雲」の属性を持つライバルなどファンタジーの要素さえ入っている。胸を熱くさせる展開は王道の少年マンガだが、登場人物が女子高生なので女性も感情移入しやすく、男女を問わずに楽しめる。最先端の全方位型剣道マンガなのだ!

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村上もとか『六三四の剣』全10巻(小学館文庫) 1981年開始
山高守人『剣姫、咲く』既刊2巻(KADOKAWA) 2016年開始

プロフィール

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伊藤 和弘

1967年、新潟県生まれ。新潟大学法学部卒業。編集プロダクション勤務を経てフリーライターに。99年から朝日新聞「コミック・ブレーク」で、インタビューと作品解説を担当する。著書に『少年マガジン伝説』(電子書籍)、『男こそアンチエイジング』(日経BP社)がある。
Twitter:@itokazraita
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