山根一眞さんが選ぶ 宇宙本ベスト5

[文]山根一眞(ノンフィクション作家・獨協大学経済学部特任教授)  [掲載]2012年08月16日

表紙画像 著者:海部 宣男  出版社:中央公論新社

(1)宇宙をうたう [著]海部宣男
(2)宇宙手帳 [著]渡辺勝巳
(3)星を追う人々 [著]辻光之助
(4)恐るべき旅路─火星探査機「のぞみ」のたどった12年 [著]松浦晋也
(5)はやぶさ、そうまでして君は [著]川口淳一郎

■古今東西の宇宙観を詩歌で味わう

 宇宙や天文は一般の人にとっては科学分野の遠い世界と受けとめられてきた感がある。だが、太陽や月、星は古代の神話世界を引き合いに出すまでもなく人類の文化史上、きわめて大きな存在だった。詩歌の世界でも宇宙、天文は人々の心と直結する存在として世界中の民族によって高らかにうたわれてきた。元国立天文台長が著した『宇宙をうたう』は、そういう天体と人の心の遍歴を、日本のみならず世界の名詩歌を繙(ひもと)きながら解説した名著だ。冒頭は沖縄の人々の太陽に寄せる思いに光を当てた一節だが、読み始めるなり著者の詩的な感性の高さと熱にぐんぐんと引きずり込まれてしまう。著者は電波天文学の先達であり、ハワイ島の「すばる望遠鏡」を実現させた世界を代表する天文学者だが、このほかにも天文にまつわる歳時記も2点出版しており、天文学と文学にあたたかな架け橋を築いている。
 その宇宙は、小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還によって、人類の究極の挑戦の場として、大きな魅力を覚える人が多くなった。この機に出版された近刊、『宇宙手帳』は、ロケットや衛星、探査機など、その人類の究極の挑戦を隅から隅まで詳しく知りたい時に役立つ分厚いデータブックで、私も宇宙関係の記事を書く時に手放せない。宇宙ファンにとって欠かせない一冊だ。
 古書でしか入手できないが50年以上前に出版された『星を追う人々』は、黎明期の東京天文台(現・国立天文台)で星の観測を続けた天文学者による何とも洒脱なエッセイ集。宇宙を探り続ける仕事を理解しようとせず容易に科学予算を認めない政治家や官僚のありようを軽妙な表現で綴るくだりもあり、50年を経た今読んでもじつに新鮮。著者は、全天の星、およそ100万個の位置を約30年かけて観測し続け「星表」を完成させる功績を残している。晩年は仏教雑誌に「石仏」の世界のエッセイを寄稿し続けるようになったが、宇宙を見続けると宗教的な世界も下々の世界もわかるようになるのだろうか。私が好きな一冊だ。

  ◇

週刊朝日 2012年8月17-24日合併号掲載

特集 バックナンバー

ここに掲載されている記事や書評などの情報は、原則的に初出時のものです。

ページトップへ戻る

ブック・アサヒ・コム サイトマップ