池田理代子さん・木原敏江さん対談 少女マンガ黄金期をともに生きて

[文]朝日新聞出版  [掲載]2012年10月19日

池田理代子さん(左)と木原敏江さん=朝日新聞出版写真部撮影 拡大画像を見る
池田理代子さん(左)と木原敏江さん=朝日新聞出版写真部撮影

表紙画像 著者:朝日新聞出版  出版社:朝日新聞出版

 2012年に連載開始40周年を迎えた『ベルサイユのばら』は、1970年代の少女マンガブームを築いた「週刊マーガレット」に連載されていました。著者である池田理代子さんの仕事を1冊にまとめた朝日オリジナルムック『池田理代子の世界』(朝日新聞出版)から、看板作家として過酷な週刊誌連載をともに乗り越えた「戦友」、木原敏江さんとの対談の一部をご紹介します。

   ◇

■「財産は壁一面の本」この一言で通じ合う

――最後にゆっくりお話しなさったのは。

【木原】 いつかな。ただ、長年、会っていなくても、昨日の続きのように話せちゃうのですよ。一種のクラスメート感覚。戦友感覚。

【池田】 本当にそうね。

【木原】 1年に1回、突然電話が来たり、パーティーがあればたまに会ったりする程度。数年に1回なんて、ザラよね。

――数年ぶりでも気兼ねがないのですね。

【木原】 あの週刊誌時代を共にしたのがね。

【池田】 本当にねえ……。初めて会ったのは「週刊マーガレット」編集部が主催したバスハイクだよね。どこに行ったのかも覚えてない。マンガ家は徹夜で仕事して、朝から寝るっていう人も多いし。

【木原】 みんな、ずっと寝ていたよね。現地に着いたら、何かをごちそうしてくれて、ちょこっと遊んだりして、また帰りのバスでボーッと寝て。「あれは何だったのだろう、どこに行ったのだろう」みたいな(笑い)。バスの座席で、たまたま私の後ろの席が理代子さんだった。

【池田】 その時にすごく強烈だったのが、彼女が「私はね、大した財産といえるようなものは何もないんだけど、壁一面の本が財産なの」って言ったの。

【木原】 壁一面っていったって、小さな壁だったりして。

【池田】 そのとき「ああ、この人とは友達になれるかもしれない」って思ったの。実は私も同じだったから。一緒に話したり、作品のタイトルや内容をご覧になったりしたら分かると思いますけど、彼女は少女マンガ家界で一、二を争う教養人なんですよ。

【木原】 いや、教養の教の字は、「くるう」の「狂」のほうかと。

【池田】 ドジさま(木原さんの愛称)は私にはない「美の世界」を持っていて、それが単なる感性だったら「私とは違うわ」ですむし、それほど引かれなかった。でも、彼女の後ろには、膨大な知識の積み重ねがある。本当に、いろんなことを教えてもらった。会えない時は、よく長電話をしたよね。

【木原】 創り手としてはね、この本の話、あの音楽の話とかって、全部ツーカーで通じる相手と突っ込んだ話ができるのがすごく楽しいんですよ。話は、どんどん、どんどん枝道にそれていくんですけれどもね。

【池田】 私が記憶に残っているのは、最長で8時間。途中で寝たり、ちょっとお手洗いに行ったりしてね。

【木原】 「何か食べる?」とか。

【池田】 「歌を歌ってあげる」とかね。

【木原】 そういえば理代子さんが、ある日ね、お料理作ってあげるって言って、来てくれたことがあったの、忙しいのに。私は埼玉の奥に住んでいたから、材料を全部持って、電車に乗ってくるんですよ、こんなつややかな格好で。それで大きなお鍋に牛乳を入れて、飛鳥鍋を作ってくれた。当時、私が『摩利と新吾』(1977~80)を描き始めた頃だったかな。締め切りで火を吹いていたので、飢えている私やアシちゃんに振る舞ってくれたことがあるのだけど、覚えてる?

【池田】 よく覚えてる。千葉県の柏を出る時に材料を買って、持っていった。飛鳥鍋って、牛乳がベースで鶏肉の入った鍋なの。

【木原】 おいしいの。食べやすいのでガツガツと、みんな食べました。

――柏と埼玉では、距離がありますよね。

【池田】 遠いですね。柏から上野まで出るのに、45分でしたしね。でも、私が病気でおなかを切った時に「手術して入院しとるのじゃ」って言ったら、来てくれたよね。

【木原】 うん、行った。遠かった(笑い)。


■「週マ」の看板マンガ家3人 ヨーロッパ珍道中

――お二人は20代の時に、一緒にヨーロッパ旅行をなさったことがあるんですよね。

【池田】 当時の長電話の中で、本当に軽いノリで、「ヨーロッパ行こうか」って。

【木原】 「ベルばら」が終わった直後ぐらいにね。本当に軽いノリだった。

【池田】 「パリに行こう」と、それだけ決めて。

【木原】 忠津陽子さん(二人と同時代の「週刊マーガレット」看板作家の一人。代表作に『ハロー!王子さま』『美人はいかが?』など)も一緒だったね。理代子さんは、当時からドイツ語ができたので、「現地ではよろしくね」って頼りにしてた。

【池田】 いやいやいや。胃が痛くなるほど、でございました。宿を予約してなかったから、電車に乗って日が暮れて、「大きめの街だからここにしよう」って降りたところが、たまたまレーゲンスブルクだったのよね。

――池田先生の『オルフェウスの窓』(1975~81)の舞台になった街ですね。

【木原】 美しい街でね。不思議なのですよ。窓の下に、にんにくと赤いバラが……。

【池田】 ドジさまがね、「ここはトランシルバニアに近いから、絶対に吸血鬼がいる」って言うの(笑い)。

【木原】 列車の中で、理代子さんに「片言でいいから、私にも何かドイツ語を教えてほしい」って言ったら、「Ich habe Hunger」っていうのをまず教えてもらったの。「おなかがすいた」って意味。一生懸命練習していたら、コンパートメントの前に座ってたドイツ人の中年のご夫妻が顔を見合わせて、「うーん」って言ってね、かばんをガサゴソ、ガサゴソってして、チョコレートをくださったの。

【池田】 そうそうそう(笑い)。

■マンガの魅力は「毒」にある デーモンが下りてくる瞬間

――ところで、お互いに、好きな作品を挙げるとするならば、どれでしょう。

【池田】 私はね、『くれないに燃ゆるとも』がすごく印象に残ってる。

【木原】 私はやっぱり、一緒に行ったレーゲンスブルクが舞台だから、『オルフェウスの窓』。『ベルばら』はリアルタイムでドキドキしながら読んでいたのですけど。

――お二人とも史劇をよく描かれますね。史実がある上に、マンガはエンターテインメントだから分かりやすくなければいけない。ご苦労もあったのではないでしょうか。

【池田】 たくさん調べても、出すのは100のうちの1にすぎない。でも、どこから突っ込まれても答えられるだけのバックはあるっていう自信が、ある。

【木原】 それは、ある。あとね、たくさん読んだ文章の中でたった一行、ひっかかる一行さえあれば描けちゃう。

【池田】 そう、そう。そうなのよ。

――豊かなバックグラウンドがあるというのは、よく分かります。池田先生の『天の涯まで―ポーランド秘史』(1990)はポーランドが舞台、木原先生の『無言歌』(1978)はハンガリー出身の男性が登場し、共に東欧にまつわる話でしたが、当時、東欧のことは教科書に載っていることくらいしか知りませんでした。お二人の作品を読むと、血が通った感じで伝わってきました。

【池田】 ナポレオンが退却する時、ポーランド王の甥であるユーゼフ・ポニャトフスキが従っていた。私、その事実だけで『天の涯まで』を描きたいと思ったの。

【木原】 『無言歌』はハンガリー動乱が間に入る話ですね。『杖と翼』(2000)という作品の場合は、学生時代に読んだフランス革命の本の、たった一行がきっかけ。死の大天使という異名のあったサン・ジュストが、最後に演説を邪魔された後、一言も発さなかった、っていう一行だけを、妙に覚えていて、そこから。それで、妄想しながらいろいろ考えていると、時々「デーモン」が降りてくるのですよ。降りてくると、「作者以外のところで、すでに決まっていることを描いています」みたいになる時があるんです。

【池田】 そう。本当にね、たまにあるの。

【木原】 音楽家だったら「ミューズが降りてくる」とかいいますけど、私たちはデビル、デーモンですよ。だって、ある種、毒がないとマンガって魅力がないじゃないですか。歴史ものは特に。マンガだけではなくて、創作の世界では毒というか、魅力というか。決して、神様や天使ではないのです。だから、マンガがあまりオープンに、軽くなっちゃうのって、ちょっと引いてしまうなあ。

【池田】 たぶんね、私たちの世代はみんなそうだと思う。マンガは子どもたちの敵、活字文化の敵とたたかれて、「おのれ」と思いながら描いてきたから。しかも、読み捨てにされていた時代に、「必ず残るものを描いてやろう」みたいな気持ちがあった。すごい力があったと思うんですよ、あの時代のエネルギーにはね。

   ◇

 木原敏江(きはら・としえ)さん。1948年東京都出身。高校卒業後、銀行勤務を経て、1969年に「別冊マーガレット」(集英社)3月号掲載『こっち向いてママ!』でデビュー。「マーガレット」の週刊誌時代をけん引したマンガ家の一人。代表作は『銀河荘なの!』『天まであがれ!』『摩利と新吾』『アンジェリク』ほか多数。1985年に『夢の碑』シリーズで第30回小学館漫画賞を受賞。現在「プリンセスGOLD」(秋田書店)で連載中。愛称「ドジさま」。

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 対談の全文は『池田理代子の世界』でお読みください。

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