種村季弘の書評宇宙

 西洋の錬金術や魔術から中国のエロス、江戸の美まで、古今東西の異端の文化を紹介し、澁澤龍彦とともに日本に幻想文学を根付かせたドイツ文学者の種村季弘さん(1933~2004)。難しそうな本も、その手にかかれば読んでみたくなる。書評の中の書評、博覧強記・種村季弘による書評の〈迷宮世界〉をのぞいてみませんか。

イン・ザ・ペニー・アーケード (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

イン・ザ・ペニー・アーケード (白水Uブックス―海外小説の誘惑) 著者:スティーヴン ミルハウザー、Steven Millhauser、柴田 元幸 出版社:白水社

   ダルキー・アーカイブ・プレスが、ミルハウザーのあの素晴しい短編集を、アメリカ文学シリーズの1冊として再び世に送り出すことになった。巧みな描写力に加えて、人間の才知と酔狂に対するミルハウザーの深い洞察があますところなく発揮された物語の数々は、真実と超現実的な美しさの両方を兼ね備えている。

 『Lives of the Monster Dogs』の著者、クリステン・バキスと、「アウグスト・エッツェンブルグ」を書いたミルハウザーは、同じ夜に同じ主人公の夢を見たのではないだろうか。両者とも名前をアウグストといい、両者とも創作家として、人間と人間もどきの違いは何かという難問に直面する。

   主人公のアウグスト・エッシェンブルグは、ほんの短時間ではあるが、ほとんど生きていると見まがうほど精巧な動きをする、からくり人形を作りあげる。彼の技法はしかし、ハウゼンシュタインによって下劣な形で模倣される。ハウゼンシュタインが作ったのは、観客がより喜びそうなしろもの…セクシャルな側面が異様に強調されたからくり人形だった。うねるように動く巨大なヒップ、流し目の好色な顔、そして大きな胸。芸術は大衆娯楽のえじきとなった。そしてアウグストのパトロンは、彼の人形ではなく、お色気ロボットの方を選ぶのである。

   カフカの「断食芸人」のように、アウグストもまた、経済状況を顧みず、芸術家としての衝動に駆り立てられるまま自らの芸術へと戻っていく。この衝動こそ、独立系出版社という名の芸術家にも求められるものではないだろうか。

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