イギリスをもっと知る

 来年7月のオリンピック会場となるロンドンの文化は、日本人の生活や文化にも大きな影響を与えた。ロンドンは五輪会場としての歴史が古く、1908年から数えて同一都市としては最多の3度目の開催となる。この3度の開催の間にイギリスはどう変わったのか。来夏に備え、文学や風俗からイギリスを訪ねるための読書をしてみよう。

現代世界とイギリス帝国 (イギリス帝国と20世紀)

現代世界とイギリス帝国 (イギリス帝国と20世紀) 著者:木畑 洋一 出版社:ミネルヴァ書房

本国と支配地域の現代政治史を描く

 イギリス帝国史研究は依然として盛んである。80年代に出現したその研究は、それまでの一国主義的な歴史観を越えるものとして生まれた。しかし世界最大だったイギリス帝国が、脱植民地化によって過去のものとなった今、その研究にはどんな現代的意味があるのか。本書はこの問いに、イギリス本国やその支配した地域の現代政治史を描くことで、正面から答えようとしたものである。
 単純化すれば、それには二種類の答えがあるといえよう。一つは、帝国支配の傷跡が脱植民地化後も生きているという、帝国の負の遺産論といった理解である。今日のジンバブエのムガベ政権がどんなに問題のある独裁政権であろうと、ジンバブエがかつてのアパルトヘイトで有名なローデシア共和国から独立した国であり、独立に当たって農村部で少数の白人大農場主の支配が継続したことが、現在の問題の原因の一つであるのは間違いない。

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ロンドンの見世物 1

ロンドンの見世物 1 著者:R.D.オールティック、浜名 恵美 出版社:国書刊行会

だまされて喜ぶ人間

 人間はよくよくだまされるのが好きらしい。ひょっとすると、だまされないと生きていられない生き物なのではあるまいか。それも、とびきりバカバカしいものにだまされれば、なおのことご満悦。どうもそうなんじゃないかとうすうす察しはついていたが、この本を読んではっきりした。それが、とりあえずの感想である。
 はじめは教会の聖遺物だった。イエスが磔(はりつけ)にされた真の十字架の一片、聖墓の石、御昇天の地とゴルゴダの丘からもたらされた他の石もろもろ。いずれにせよ「頼朝公3才のみぎりのしゃれこうべ」みたいなものだ。なんだか根も葉もなさそうな、そんなものを見たいばっかりに、日曜日ごとに教会へでかけていた。それを、クロムウェルという野暮天があらわれて禁止した。のみならず破壊してしまった。といって、それでだまされたい衝動が消滅したわけではない。博物館という見世物小屋に場所をかえた。宗教から啓蒙(けいもう)へ、信仰から教育へ。信仰の奇跡が効力をうしなうだけ、ペテンが学問、科学の体裁をとる。

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ウイスキー通 (新潮選書)

ウイスキー通 (新潮選書) 著者:土屋 守 出版社:新潮社

グラス傾け、蘊蓄を語りたい

 かつて、ウイスキーは高根の花だった。スコッチウイスキーは海外旅行のお土産の定番であり、客間に並べて見せる人が多い時代もあった。
 そんなウイスキーもハードリカーが嫌われ、ワインや焼酎などのブームにおされがちになったが、数年前からスコッチのシングルモルトブームをきっかけに復権しつつある。本書は、スコッチの最新事情に加えて、アメリカン、カナディアン、アイリッシュ、ジャパニーズウイスキーの豆知識を網羅したものである。
 例えば、スコッチでは、風味の強いアイラのスモーキーモルトやウッドフィニッシュが売り上げを伸ばすなど嗜好(しこう)の変化が生じていることや、米国のテネシーウイスキーが熟成前にチャコールメローリングで風味を付けることを除けば、実はバーボンと製法が同じことなどである。

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きまぐれな読書―現代イギリス文学の魅力 (大人の本棚)

きまぐれな読書―現代イギリス文学の魅力 (大人の本棚) 著者:富士川 義之 出版社:みすず書房

書評の書評の書評をすれば…

 「夕イムズ文芸付録」という国際的書評紙がある。たかが書評紙である。だが二〇年代の同紙にT・S・エリオットが匿名で書いた「形而上(けいじじょう)派詩人たち」という書評はその後の英国の詩を決定的に変えた。文芸雑誌が文芸批評の舞台のわが国とちがって、英米では文芸出版物にとって書評が一切であるらしい。
 本書も書評集である。漱石のロンドンでの自転車修業、エズラ・パウンドの北園克衛や西脇順三郎との関係、それにビニヨンという聞きなれない東洋美術通の学者詩人が「緩やかさが美である」と語ったというエピソードなど、英文学夜話風の話題を広い読書範囲からひろってまとめたエッセイ集だが、それでいて書評集なのだ。

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夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 著者:カズオ・イシグロ、土屋政雄 出版社:早川書房

人を隔てる「壁」、滑稽さで描く

 若い頃ミュージシャンを目指したという作者初の短編集だ。
 各編には色々な「音楽家」が登場する。往年の大物歌手、無名のバックプレーヤー、夢を諦(あきら)めてスターと結婚した女……。そこに、夫婦、病院の患者同士、師弟など、こじれたりねじれたり、一風変わった男女関係が絡む。元共産圏のギタリストは、ベネチアで舟に乗って妻にセレナーデを捧(ささ)げるという米国男に伴奏を頼まれ、定職のないジャズ好きは、裕福な友人夫婦の仲直りのため夫の引き立て役にされ、サックス奏者は売れるためにハリウッドで整形手術をする。短絡的と言えば言えるだろう。必死さゆえの人間の滑稽(こっけい)さを、作者はドラマチックな起伏を作らず素っ気なく描く。よく出来たオチもない。むしろ長編の呼吸や余韻に近く、一編ごとに深い充足感が得られる。

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ビカミング・ジェイン・オースティン

ビカミング・ジェイン・オースティン 著者:ジョン・スペンス、中尾真理 出版社:キネマ旬報社

小説のモデルを類推する楽しみ

 作家の人生を、知りたい。
 この欲求は、優れた作品を読む時にわいてくる「この人はなぜ、このような作品を書いたのか」という疑問に答えを見つけたいからこそ、抱くものです。
 ジェイン・オースティンに関しても、その人生を様々な角度から見た本が、多数出ています。彼女はなぜ結婚を、家族を、そして日常というものを、こうも巧みに描くことができるのか?という疑問は、読者の誰もが持つものでありましょう。
 「ビカミング・ジェイン・オースティン」は、直訳すれば「ジェイン・オースティンになる」。18世紀にイギリスで生まれた女性が、作家ジェイン・オースティンに「なる」過程が、家族間で交わされた書簡等の資料を丁寧にひもとくことによって、描かれています。

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やんごとなき読者

やんごとなき読者 著者:アラン ベネット、市川 恵里 出版社:白水社

女王陛下が読書熱にとりつかれ

 なんとチャーミングな本だろう。英国の女王陛下が齢(よわい)八十近くにして突如、猛烈な読書熱にとりつかれるという、オプシマス(晩学者)の目覚めを描いた王室コメディー。王室風刺はイギリス文学のおはこである。
 ある日、エリザベス二世は愛犬を追いかけて移動図書館に入りこむ。兎(うさぎ)を追って穴に落ちたアリスのように、その時から不思議の国への冒険が始まった。書記に抜擢(ばってき)した若者の助力で次々と小説や詩集にのめりこみ、公務も上の空、園遊会や会談で文学を論じ、ついに周囲はアルツハイマー病を疑うことに。本書解説者によれば、イギリスの上流階級には「物知らず」を美徳とするところがあるのだ。

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イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫)

イギリスだより―カレル・チャペック旅行記コレクション (ちくま文庫) 著者:カレル チャペック、Karel Capek、飯島 周 出版社:筑摩書房

「島国性」への暖かいまなざし

 『山椒魚戦争』などのSFで日本で今も人気の作家、カレル・チャペックの洞察力が冴える『イギリスだより』は、祖国の小国チェコを愛するチャペックが、1924年にロンドンで開かれた国際ペンクラブ大会と大英帝国博覧会に訪れたイギリス旅行2カ月の見聞を、チェコの新聞で連載したものだ。
 チャペックは船でドーバーに上陸し、列車でロンドンを目指す。緑地と牧草地だけが延々と続く風景に、「わが国、チェコの人たちは、寸土といえどもあまさずに、誰かが野良仕事をしている光景になれているのに」と驚く。

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イギリス的風景―教養の旅から感性の旅へ (NTT出版ライブラリーレゾナント)

イギリス的風景―教養の旅から感性の旅へ (NTT出版ライブラリーレゾナント) 著者:中島 俊郎 出版社:NTT出版

「田園好き」の歴史をたどる

 10年ほど前にイギリスの郊外に住んでいた際、英国人の友人に誘われ、田園散策に出かけた。
 しかし、半日を過ごしたその散策は、米国人のように政治や経済について議論するわけではなく、かといって歩いた距離や速さを競うわけでもなく、ただただ歩き、自然に身を委ね、分かれ道でもお互いが行きたい方へ進むという奇妙なものであった。
 今から思えば、それぞれが自然の中で気持ちを静め、黙思し、自分と語り、そして人生を見つめ直す時間を持ったことになる。英国人が好む本来の散策であれば、道をどちらに曲がるか、歩き続けるか止まるかも当人の完全なる自由意思でなければならないから、私の存在はそもそも邪魔であったろうが、散策の素晴らしさを伝えるために誘ったのであろう。

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夏目金之助 ロンドンに狂せり

夏目金之助 ロンドンに狂せり 著者:末延 芳晴 出版社:青土社

漱石のロンドン留学

 漱石の金之助時代、二年間のロンドン留学の軌跡を丹念に追い、その関連において作品を読み解く書。
 著者自身のニューヨーク滞在経験や永井荷風の研究が随所に活(い)かされている。
 自由人として海を渡った荷風に対して、金之助は国費留学生の枷(かせ)に縛られていた。研究課題は英文学ならぬ語学教授法で、実に中途半端。しかも、日本での社会的優越性は通用しない。このアイデンティティの喪失が、彼を狂気と紙一重の引きこもりに追い込んだ。

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