わたしのグイン・サーガ

 『グイン・サーガ』を読んだことがありますか?
 作家・栗本薫(1953~2009、別筆名に中島梓)さんが30年以上にわたって書き継いだファンタジー小説で、「正編」130巻、「外伝」21巻に及ぶ世界最長の物語です。
 豹頭の戦士・グインの活躍を新刊を待ちながら読んだオールドファンも、アニメ化をきっかけに新装版を手にとった人も、刊行中の電子書籍で初めて出会った人も、それぞれのグイン体験があったと思います。その「あなたのグイン・サーガ体験」をブック・アサヒ・コムのレビューに書いてみませんか(約200~1000文字)。
  寄せられたレビューのなかから印象的なものを、栗本さんの最も身近にいた編集者・夫で、創作の現場を見守り続けた今岡清・元S-Fマガジン編集長とともに選び、この特集内で紹介します。紹介された方を含め五人の方に、栗本さんが生前使っていた千社札とポストカードをプレゼントします(締め切らせていただきました。ご応募ありがとうございました)。
 
 まずは今岡さんの語る「わたしのグイン・サーガ」をお楽しみください。

【寄せられたレビューをご紹介します!】
●hirohiroさんのレビュー




●kaseさんのレビュー




●ともきちさんのレビュー



※それぞれ、文意を変えない範囲で、表記に少し手を加えさせていただきました。
 みなさんありがとうございました!

豹頭の仮面―グイン・サーガ(1) (ハヤカワ文庫JA)

豹頭の仮面―グイン・サーガ(1) (ハヤカワ文庫JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■偶然だった執筆のきっかけ

 グイン・サーガの始まりは、偶然に近い形でした。栗本は幼いころから本が好きで、児童書で活躍されていた武部本一郎さんの挿絵が大のお気に入りでした。武部さんはその後、E・R・バロウズの「火星シリーズ」(第一作『火星のプリンセス』は1965年東京創元社から刊行)でSFアートに進出、その世界で押しも押されぬ大家になっていくのですが、栗本は武部さんの表紙画にひかれて、『火星のプリンセス』を手に取った。それがグイン・サーガ執筆に至る、そもそもの発端です。
(『豹頭の仮面』はグイン・サーガシリーズ第一巻であるとともに、第一部「パロ奪還編」<〜16巻>の幕開けを告げる書でもある。第19巻までの挿絵は武部本一郎に触発されてイラストレーターとなった加藤直之)

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三人の放浪者―グイン・サーガ(17) (ハヤカワ文庫JA)

三人の放浪者―グイン・サーガ(17) (ハヤカワ文庫JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■ヒロイック・ファンタジーが書きたい!

 栗本は、デュマの「モンテ・クリスト伯」を最高の小説と考えていました。小説にはキャラクター、設定、プロットなどいろいろな要素がありますが、とにかく物語性、ドラマ性を一番重要視していた。その点、「火星シリーズ」はまさにぴったりで、熱狂的に読んでいました。バロウズの次に、ヒロイック・ファンタジーの原点といわれる「英雄コナンシリーズ」(ロバート・E・ハワード著、邦訳は早川文庫・東京創元社から1970年より刊行)に熱中した。この二つが大きなきっかけとなって、自分でもヒロイック・ファンタジーを書きたい、と思い始めたのです。
(第二部「ケイロニア陰謀編」は本書『三人の放浪者』からスタートし、30巻まで続く)

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愛の嵐―グイン・サーガ(34) (ハヤカワ文庫JA)

愛の嵐―グイン・サーガ(34) (ハヤカワ文庫JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■ヒロイック・ファンタジーをメジャーにした「グイン」

 当時の日本では、SFそのものがマイナーなジャンルで、ヒロイック・ファンタジーは、翻訳こそぽつぽつ刊行されていたけれども、売れ行きもさほどではなく、マイナーなSFの、さらにマイナーな一分野でした。一般の人から見たら、日本においては、栗本の「グイン」で、日本において初めてヒロイック・ファンタジーが誕生した、というふうに見えたかもしれないですね。
 実際にはそうではなくて、高千穂遙の「美獣シリーズ」(「美獣(上)(下)」集英社文庫)が先行しており、栗本もこれを読んで、先を越された、これでは勝てないと思った、と書いています。そこで、すでに第一作を書き上げていた「氷惑星の戦士」シリーズ(第一作が外伝22巻、没後発見された第二作が『グイン・サーガ・ワールド2』に所収)を捨てて、一から構想、執筆しなおしたのが「グイン・サーガ」です。
(第三部「シルヴィア誘拐編」はこの『愛の嵐』から第47巻まで)

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美しき虜囚―グイン・サーガ(48) (ハヤカワ文庫JA)

美しき虜囚―グイン・サーガ(48) (ハヤカワ文庫JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■「終わらせなくていいのがうれしい」

 グイン・サーガは30年にもわたって書き続けられてきたわけですが、原稿やコメントでは「何十巻で終わらせる」とか「百巻を目指す」とか、書いたり答えたりしていました。でも、本心では、終わらせることはまったく考えていませんでしたね。
「小説を書いていて一番つらいのは、終わらせなければならないこと。グインは完結させてなくていいのがうれしい」と話していました。
「中島梓」名義を含め、生涯に400冊以上の本を出し、多作の作家と言われるのですが、身近にいた私から見ても、その量は異常なものでした。毎日のように締め切りを抱え、一般に刊行される本の他に、ネットにも書き、それとは別に自分の同人誌用にも原稿を書いて、時には芝居の脚本も……。
 普通の物書きなら書きすぎておかしくなるところが、栗本の場合は書かないとおかしくなる。「最近、どうも調子が悪いのよね」というから「このところ小説書いてないせいじゃない?」というわけで、小説執筆を再開したら、ほんとうに体調が回復したことが何度かありました。
 ほんとに書くことが好きで好きでしょうがない作家でした。
(第四部「アムブラ騒乱編」は第48巻〜第52巻

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ガルムの標的―グイン・サーガ(53) (ハヤカワ文庫JA)

ガルムの標的―グイン・サーガ(53) (ハヤカワ文庫JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■「小説」とは違うもの?

「グイン」には栗本が人生の中で摂取したありとあらゆる文化や作品の影響が見て取れます。たとえば、非常に強い印象を受けたと公言している映画「アラビアのロレンス」であったり、若い頃から親しんでいた歌舞伎であったり。H・P・ラヴクラフトを初めとする幻想小説や耽美小説の要素もたっぷりあります。
 外伝も入れて150巻もあると、急いで読んでも一年かかる分量です。これはもう、普通一般にいう「小説」という枠組みは超えてしまったのではないかという気もしています。
 普通の小説では、世界の中の、ほんの一部のキャラクターなりシーンが切り取られて提示される。作中に登場しなかった部分や場面、ストーリーは存在はしているんだけれど、書かれない。
 ところが「グイン」はその先も書いてしまった。おとぎ話にたとえていうならば、「そして王子様と王女様は幸せに暮らしました」というところで普通は終わるべきところが、その続きの、そのまた続きまで書いてしまった。それがグインなのではないか。
 ですから150巻の小説というと、とてつもないものに思われるけれども、たとえば、「正編」の「パロ奪還編」(第1巻~第16巻)までを一つの小説として考えて、それを読んで楽しむ、あるいはもっと後の部分を取り出して読む、というのも、それはそれでありなんじゃないか。普通の小説とは違う、何か別のものを目指した実験だったのではないかと思うようになりました。
 最近、電子書籍専用端末に配信されるようになりました。『グイン・サーガ(愛蔵版)」は全巻そろえると、重さが十キロ以上になりますが、電子書籍なら字も大きくできるし、どこにでも簡単に持ち歩ける。自由な読み方が、さらに読者を広げてくれればいいですね。
(「ゴーラ戦乱編」は第53巻〜第69巻)

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時の潮―グイン・サーガ(63) (ハヤカワ文庫JA)

時の潮―グイン・サーガ(63) (ハヤカワ文庫JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■生涯に400冊書いた作家の執念

 さぞかし執筆が速かったのでしょうね、とよく聞かれるのですが、書く枚数は、一日最高400字・100枚くらいで、それも滅多になく、だいたいは50枚くらいなので、それだけ見ると、他にも同レベルか、あるいはもっと書ける作家さんはいらっしゃると思うんですが、ほとんど書き直しがないんですよ。手書き時代の原稿を見ると、ノートにびっしりとペンで文字を書き込んであるけど、ほとんど修正・追加がない。
 手塚治虫さんは下書きほとんどなしで、ページの中の自分の好きな部分からランダムに筆を入れて、驚異的なスピードで原稿を完成されたと聞いていますが、それに近い。頭の中に原稿のイメージができていて、あとはそれを形にするだけ、という執筆法だったのだと思います。
 闘病記『転移』(朝日文庫)には、死の寸前まで書き続けた日記を収録しているのですが、普通死期を迎えた人間は、家族や身近な人のこと、過去の思い出を語りたがったりするものですが、栗本の場合、ひたすら「書きたい、書き続けなければ」とまるで譫言のように書き付けている。本当に書くことが好きだったんだな、と思います。
 没後残された原稿を整理し、定期的に本にしているのですが、まだ出版されていない原稿が2万枚あり、あと一年半分くらいは、出版を続けられそうです。
(「パロ内乱編」は第63巻〜第92巻まで)

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熱砂の放浪者―グイン・サーガ(93) (ハヤカワ文庫JA)

熱砂の放浪者―グイン・サーガ(93) (ハヤカワ文庫JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■未完の「グイン」をどうするか?

 もしまだ生きていれば、栗本は当然「グイン」を書き続けていたことでしょう。存命中は「200巻までは書きたい。200巻を達成してまだ生きていたら、続編も書きたい」と明言していましたから。
 だから早川書房から他の著者による続編の話があったとき、私は初め断ったんです。やはり作品は作者のもの、栗本以外の手になる「グイン」は考えられないと。
 しかし死後に刊行された『新装版 グイン・サーガⅧ 帰還』のあとがきで、栗本が意外なことを書いていたんですね。
(「記憶喪失編」は第93巻〜第103巻まで)

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湖畔のマリニア グイン・サーガ(104) (ハヤカワ文庫 JA)

湖畔のマリニア グイン・サーガ(104) (ハヤカワ文庫 JA) 著者:栗本 薫 出版社:早川書房

■栗本薫の遺志は……?

「自分がもしかなり早く死んでしまうようなことがあっても、誰かがこの物語を語り継いでくれればよい。どこかの遠い国の神話伝説のように、いろいろな語り部が語り継ぎ、接ぎ木をし、話をこしらえ、さらにあたらしくして、いろんな枝を茂らせながら、それこそインターネットが最初空想していたような大樹になってもよいではないかーー」
 私はこの前後体調を壊し、入院していたものですから、出版された後にこのあとがきを読んだのです。栗本の遺志がこのようなものであるならば、それをかなえてやらなければなりません。そこで始めたのが、久美沙織さんはじめ、ベテラン・新鋭作家による外伝アンソロジー『グイン・サーガ・ワールド』(ハヤカワ文庫。1~3まで刊行)です。
(「タイス激闘編」は第104巻〜第117巻)

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クリスタルの再会 (ハヤカワ文庫JA ク1-118 グイン・サーガ118)

クリスタルの再会 (ハヤカワ文庫JA ク1-118 グイン・サーガ118) 著者:栗本 薫、丹野 忍 出版社:早川書房

■プラットフォームとしての物語

 別の著者による続編、という企画のヒントはH・P・ラヴクラフトの「クトゥルー神話」です。「クトゥルー神話」のシリーズは、ラヴクラフトの死後、他の作者によって同じ設定・世界観を使った小説が綿々と書き続けられています。一つ一つの本や小説で完結するのではなく、「クトゥルー」という土台の上に、さまざまな作者や作品が乗っかって、全体として一つの作品になっている。
 それと同じ形を「グイン」でも実現できないか、と考えたのです。 
 いわば、プラットフォームとしての作品。これも長大な「グイン」でこその試みかもしれません。
(第118巻〜130巻は「ミロク編」。130巻『見知らぬ明日』は未完のまま出版された)

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