獏さんのまんが噺 1

 マンガ好きで知られる作家の夢枕獏さんが、2点ずつお気に入りの作品を紹介します。懐かしい名作から最新の連載まで、ときにファンとしてときに専門家(原作者)としてその魅力を語ります。釣りや格闘技といった獏さんの趣味のど真ん中の作品から少女マンガの傑作まで、獏さんと一緒にマンガの楽しさを再発見しませんか。
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 獏さんに読んで欲しい作品をご推薦ください。獏さんが好きそうな作品から、獏さんの趣味では絶対読んでいないだろうと思うものまで、「お薦めの1作」とその理由を教えてください。第1回の締め切りは1月10日です。2月以降の特集で採用された方のなかから抽選で、泉鏡花文学賞と舟橋聖一文学賞をダブル受賞した小説『大江戸釣客伝』(上、講談社)に獏さんのサインを入れてプレゼントします。応募はこちら
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 ゆめまくら・ばく 1951年、神奈川県小田原市生まれ。キマイラやサイコダイバーなど多くの人気シリーズを持ち、『陰陽師』『餓狼伝』など自作が元になったマンガや映画も数多い。『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞を受賞。

修羅の門 第弐門(1) (講談社コミックス月刊マガジン)

修羅の門 第弐門(1) (講談社コミックス月刊マガジン) 著者:川原 正敏 出版社:講談社

復活した伝説の格闘マンガ

 ――獏さん、いきなり格闘技じゃ、女性読者が減っちゃいませんか? この間も「宿神」でコンビを組んだ画家の飯野和好さんのサイン会にずらりと女性ファンが並ぶのを見て、うらやましがっていたじゃないですか。

 いや、オレもね『陰陽師』シリーズのサイン会のときは半分以上女性なんだよ。ふだんは男ばかりなんだけど……。
この『修羅の門』は、ずっと待っていて、やっと連載が再開したから、毎回楽しみでね。次は少女マンガにするから、まずはこの『修羅の門』から始めようか。
 物語は、陸奥圓明流(むつえんめいりゅう)という古武術の流れをくむ主人公が現代のさまざまな武術家と戦っていくというもので、ブラジルでグレーシー柔術の流れをくむ使い手と戦って、前田光代がひそかに育てた男と会うというところで中断していた。『海皇紀』という海洋冒険ものと、『修羅の門』の外伝となる『修羅の刻』という陸奥圓明流の歴史をひもとく作品を書いていたためで、この『海皇紀』もおもしろかったな。

 ――獏さんのストライクゾーンど真ん中ですね。

 オレもキマイラや魔獣狩り以来、繰り返し、繰り返し、何千枚も格闘の場面を小説に書いてきたけど、川原さんはなにより格闘シーンの間(ま)の使い方がうまいんだね。
ひとつの技を出して次の技に入るときに、細かくそのあいだを描いてもいいし、ふっと飛ばして次の技に入ってもいい。天性の才能もあるけれど、連載が続くうちにさらに上達している。なんというか、自分の呼吸に近い感じがして、読んでいて引き込まれちゃう。

 ――主人公の名前が陸奥九十九(むつ・つくも)というところからも、獏さんの小説『闇狩り師』(主人公は九十九乱蔵)の影響を受けている感じがしますね。厳しい戦いのなかで「楽しいなあ」という述懐が入るところも似ています。

 戦っている最中に「おい楽しいなあ」「これから殺し合いができるんだぜ」とか。ぼくは、それを小説のなかに確信犯的に入れたんです。そんな極限の場での高揚感のとらえ方も親近感をおぼえますね。

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軍鶏 巻之壱 (KCデラックス イブニング)

軍鶏 巻之壱 (KCデラックス イブニング) 著者:たなか 亜希夫、橋本 以蔵 出版社:講談社

秀逸な戦う肉体の描写

 ――もう一つも格闘マンガですか? どれだけ女性ファンの反応が少ないか「お薦めの1作」応募者の男女比を次回公開しますよ。

 いやこれは、復活格闘路線のセットだからさ。
田中亜希夫さんの『軍鶏(しゃも)』は、両親を殺して少年院に行った男が主人公で、そこで空手を教わって格闘技に目覚めていくマンガなんです。彼が社会に戻ってから格闘技界でのぼっていく話ですが、『修羅の門』が陽なのに対し、こちらは格闘の負の面を描いています。武道の達人になれば精神的にも人格的にも高い境地に行けるなんて幻想を吹き飛ばします。

 ――『あしたのジョー』と比較する人もいますね。たしか著作権をめぐって橋本以蔵さんとたなか亜希夫が裁判になって、連載が数年中断していました。

 その事情はわかりませんが、再開をとにかく喜びたいですね。今年の秋に復活後の1巻目がやっと出たところなんです。なにより、たなか亜希夫が描く肉体はモーションが美しい。例えば、絵がすごくうまいと言われている人には『バカボンド』の井上雄彦さんがいますが、田中さんの絵も本当にいいんですよ。ぜひ見てもらいたいですね。

 ――獏さんは先月、いつにも増して忙しかったようですね。泉鏡花文学賞と舟橋聖一文学賞のダブル受賞、おめでとうございます。

鏡花賞は89歳の瀬戸内寂聴さんと同時受賞でした。金沢の授賞式で寂聴さんに「作家なんだから(女性関係が)いろいろあるんでしょ。あるんでしょ」と繰り返し聞かれて困りました……というより、楽しかったですね。 

 ――えっ、あるんですか?

 まあ、そういう話はまたおいおい。お後がよろしいようで。

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