わかりたいあなたのためのライトノベル入門

 ライトノベルが人気です。
 出版科学研究所の調査によると、2011年の文庫本市場で、ライトノベルの販売シェアは23.5%。出版された文庫の約4冊に1冊はライトノベルだったということになります(「2011年文庫マーケットリポート」出版月報2012年3月号)。
 何がライトノベルか、そうでないかは、議論が分かれるところです。最大公約数的な要素としては、以下のような条件がうかびあがります。

・主に10代を主人公とし、10代を対象とした小説
・アニメやマンガ風の表紙、イラストがついている
・会話を主体とした独白調の文体
・かわいい女の子や男の子が登場する

 とはいえ、こうしたポイントに当てはまらないライトノベルもあれば、逆に一般小説でも「ライトノベル的」と評される作品もあり、境目はあいまいです。
 ライトノベルとは何なのか、なぜ、若者たちをこれほどまでに引きつけるのか--。
 人気シリーズを中心に、このジャンルの入門的な作品を集めてみました。

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫) 著者:谷川 流、いとう のいぢ 出版社:角川書店

■オールドSFファンも楽しめる

 2003年から続く、ライトノベルの代名詞的存在となった人気シリーズ。昨年春に刊行された第10・11巻「涼宮ハルヒの驚愕」は、初回発行部数が100万部を超え、シリーズ累計部数は1650万部に及ぶ。
「宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい」と高校入学のあいさつで言い放った超常現象好きな高校生、涼宮ハルヒと主人公の通称キョン(本名は明かされない)は、学園生活を楽しむためサークルを設立する。そこに集まってきたメンバーは、一見普通の生徒に見えたが、正体は本物の宇宙人、未来人、超能力者であり「宇宙を作り変える能力」を持つハルヒの監視任務を帯びたエージェントであった。この世界は実はハルヒの見ている夢のような存在であり、ハルヒは本人の自覚のないまま自分の能力を使って様々な異常現象を引き起こしているのだという。キョンは部員とともに、時には命を狙われながら、ハルヒを影で支え、救おうとする。
「世界の命運がたった一人の人間に握られている」という発想はSFの古典的アイデアの一つであり「ワイドスクリーン・バロック」と呼ばれるジャンルを形成している(A・E・ヴァン・ヴォークト「非Aの傀儡」やアルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」など)。だが主人公に自分の能力の自覚がなく、周囲の者が一方的に心配し、サポートするという構図が斬新。SF+学園もの+萌えの要素が巧妙に混ぜ合わされたストーリーは、独特な語り口さえ気にならなければ、大人の、特にオールドSFファンが読んでも十分楽しめる。

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とある魔術の禁書目録(インデックス) (電撃文庫)

とある魔術の禁書目録(インデックス) (電撃文庫) 著者:鎌池 和馬、灰村 キヨタカ 出版社:アスキー・メディアワークス

■一粒で二度おいしいファンタジー

「禁書目録」と書いて「インデックス」と読む。コミックや関連作品(スピンオフ)を含め累計発行部数1900万部、新刊はベストセラーランクの常連という、2004年から続く人気作品。超能力や超科学(オーバーテクノロジー)が支配する「科学」の勢力と、魔法や呪文が支配する「魔術」の勢力とが重なり合いながら共存する世界で、超能力者開発を目的に作られた「学園都市」を舞台に展開される諸勢力同士のバトルを描いたファンタジーである。
 主人公・上条当麻は、超能力の判定基準では「レベル0」、つまり無能力者であったが、他者のあらゆる能力を封じる「幻想殺し(イマジンブレーカー)」という奇妙な力を持っている。そんな上条の部屋のベランダに、ある日修道士の服を着た少女が落ちてきた。少女は10万冊以上の魔道書を「完全記憶能力」で脳内に記憶する「禁書目録」であり、魔道書を狙う勢力に追われているのだという。魔道士に襲われ倒れた少女を前にした当麻は、自分の力で少女を守ろうと決意するが、少女の能力の争奪戦は、やがて世界規模の戦争へと発展する。
 思春期に誰もが一度は夢見た「魔術」と「超科学」の世界を同時に楽しめる舞台設定、魅力的なキャラクターなど、人気の秘密はいくつか考えられるが「窮地の女性を救う」という中世の騎士物語からの男の子の共通願望を具現していることが一番の要因かもしれない。世界観と一部のキャラクターを共有し、「科学」の側からの物語を描いたスピンオフ作品「とある科学の超電磁砲(レールガン)」も人気があり、「シェアードワールド」(世界観とキャラクターを共有した複数シリーズを展開する作品のあり方)の成功例の一つとなっている。

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ミニスカ宇宙海賊1 (朝日ノベルズ)

ミニスカ宇宙海賊1 (朝日ノベルズ) 著者:笹本 祐一、松本 規之 出版社:朝日新聞出版

■ライトノベルに見せかけたハードSF

 ライトノベルとSFとの違いは微妙だ。SFはライトノベルのジャンル内ジャンルとしても一大勢力を形成しており、SFから見ても、多くの作品がライトノベルと共通の要素を有している。
 そんな視点から見ると非常に面白いのが本作。「ミニスカをはいた宇宙海賊の少女」というコンセプト、かわいらしいカバー絵などから、一見美少女もののスペースオペラかと思いきや、極めて緻密に設定された世界観、科学考証に驚かされる。例えば、こんな具合。
「お嬢さまは天測と対地観測で軌道上六要素を推測、設定されてる帰還地点への突入軌道の算定を開始してる。母星の自転と逆方向に放り出されちまった逆行軌道だから、大気圏突入速度もきついし針路もかなりねじ曲げなきゃならん…」。
 つまり、ライトノベル的な道具立てを使ったハードSFとしても読める。

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神様のメモ帳 (電撃文庫)

神様のメモ帳 (電撃文庫) 著者:杉井 光、岸田 メル 出版社:メディアワークス

■「運命」はあるのか?

 ライトノベルといえば「学園」「魔法」「超能力」「異世界」などが定番だと思われており、実際そうした作品が多いが、本作は「学園」こそ舞台の片隅に出てくるものの、他の要素が一切ない異色のライトノベル。むしろ「ジュブナイル」に分類した方がいいかもしれないが、出版元はライトノベルで大きなシェアを持つ「電撃文庫」だ。
 複雑な家庭環境、度重なる転校もあり、周囲に溶け込めない孤独な高校生、藤島鳴海はひょんなきっかけから、クラスメートの彩夏と二人だけの園芸部を創設することになり、彩夏を通じて引きこもりの少女アリス率いる「ニート探偵団」と知り合う。「ニート探偵団」はニートであることに誇りを持ち、それぞれの特殊能力(といっても、非現実的なものではない)を使って事件を解決する。鳴海はいつしかアリスの「助手」として事件捜査を手伝うことになるが、その過程で、救いようのない悲劇に遭遇する。
 「神さまのメモ帳」とは「運命」のこと。この世に起きることはあらかじめ決められているのか、人間は運命に逆らえるのか、がテーマとなっている。次の一節は、若者の閉塞感を表現した言葉として胸に迫る。「人はなんのために生きているのか、だれでも子供の頃に少なくとも一度は考えてみたことがあると思う。この国にはその答えをわかりやすく書いたテキストが存在しないから(かつて存在していたものは大東亜戦争とバブル経済崩壊で焼かれてしまった)」
 

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図書館戦争

図書館戦争 著者:有川 浩 出版社:メディアワークス

■クロスオーバー作品

 2003年「塩の街」で電撃ゲーム小説大賞を受賞してデビューした有川浩は、桜庭一樹、冲方丁などとともに、ライトノベルから一般小説へも活躍の場を広げた「越境(クロスオーバー)作家」の一人と言われる。
 「メディア良化法」によって検閲が合法化された未来世界。主人公は表現の自由を守るため図書館が設立した武装組織「図書隊」に加わり、「良化特務機関」を初めとする弾圧勢力と戦う。戦いの中で恋も芽生えて……というストーリー。
 豊富な軍事知識や現実感のあるキャラクター、詳細な世界設定が、非現実的なプロットと絶妙にブレンドされ、「ライトノベルかどうか」と関係なく楽しめる。ただし作品に直接言及されないところまで世界観を徹底的に作り込んでいることがうかがえるあたりは、ライトノベル的である。

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GOSICK‐ゴシック‐ (角川ビーンズ文庫)

GOSICK‐ゴシック‐ (角川ビーンズ文庫) 著者:桜庭 一樹、武田 日向 出版社:角川書店

■一般文庫とライトノベル文庫両方で刊行

 「私の男」で2008年の直木賞を受賞した桜庭一樹はライトノベル出身の作家。「夜空に、満点の星」で第一回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門に佳作入賞したのをきっかけに小説家としてデビュー、04年にライトノベルのレーベル「富士見ミステリー文庫」より発表した「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」がライトノベルらしからぬシリアスなストーリーで注目され、それをきっかけに一般小説に進出した。
 本書は「砂糖菓子……」に先立つ2003年に同じ富士見ミステリー文庫から刊行が始められたシリーズ。天才美少女探偵のヴィクトリカと日本人の久城一弥の二人が様々な難事件に立ち向かう。一般小説の角川文庫版と、イラストを入れたライトノベル版(角川ビーンズ文庫)の両方が販売されている。

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ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)

ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫) 著者:三上 延、越島 はぐ 出版社:アスキーメディアワークス

■ライトノベルトップシェア版元が出した一般小説

 続編も含め累計200万部を突破したミステリー仕立ての恋愛小説。あることがきっかけで活字恐怖症になった主人公、五浦大輔は、祖母が残した古書を売ろうと近所の古書店を訪ねる。店主は美貌だが極度の人見知りで、普通の社会生活さえ困難なのでは? と思わせる若い女性。しかし、一度古書を前にすると、人が変わったように饒舌になり、本に関する該博な知識をもとに、様々な「事件」を解決していく。
 著者は第8回(01年)電撃ゲーム小説大賞応募者。受賞は逃したが、02年「ダーク・バイオレッツ」(電撃文庫)でデビュー。本書はライトノベル市場でトップシェアを占めると言われるアスキー・メディアワークスが2009年にスタートさせた一般小説レーベル「メディアワークス文庫」発のヒット作ということでも注目された。

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僕は友達が少ない (MF文庫J)

僕は友達が少ない (MF文庫J) 著者:平坂 読、ブリキ 出版社:メディアファクトリー

■「学園もの」へのアンチテーゼ

 ライトノベルという名称が一般に使われ出したのは2000年頃からで、それ以前からあった「ジュブナイル小説」「少女小説」などとどう違うのか、という点がしばしば話題になる。「ライトノベル『超』入門」(ソフトバンク新書)などによると、明快な違いは、業界の中でも外でも見いだせていないようだ。
 ただ一つ言えるのは、ライトノベルには「メタ的視点」が多用される、ということだ。
 この特性が明確に出ているのが本作品。「学園もの」といえば生徒同士が友情を育む、というのが通り相場だが、それを真っ向から覆している。転校生・羽瀬川小鷹は、外見が理由でクラスメートから遠ざけられ、なかなか友達ができない。そんなある日、才色兼備の同級生、三日月夜空が放課後の教室で、何もない空間を相手に不思議な会話を交わしているのを目にする。小鷹と同様、友人のいない夜空は架空の「エア友達」と会話しているというのだ。秘密を共有した二人は友人をつくるための部活「隣人部」を設立するが、個性的であるがゆえに友達のいない「残念」な部員ばかりが増えていく……。
 友人を増やすには個性を殺し、仮面をかむり、空気を読まなければならない、そうまでして友達が必要なのか? という、ある種「学園もの」という枠組みを根底から覆すテーマを内包しながら、登場人物は友達作りのための「予行演習」を繰り返していく。「予行演習」とは「学園もの」によく出てくる定番的なイベント(カラオケ、映画制作、ゲーム等々)。ここでは数多ある「学園もの」を踏み台とした「メタ」的な語りがストーリーを駆動している。
 ライトノベルのもう一つの特性であるポップカルチャー(本作の場合は、美少女ゲーム、「エロゲー」)への過剰な参照があり、万人にお勧めとは言いがたいが、「素の自分」を出せない今の若者社会のあり方をのぞき見る意味では興味深い作品である。

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