人工美に萌える本

 人影の絶えた放課後の教室、始発電車を待つ駅のホーム、シャッターの降りた商店街、閉鎖された遊園地、建築途上で放棄されたビル、延々と続く電灯や鉄塔……こんな無機質な人工物に、ふと、心ひかれてしまう瞬間がありませんか?
 建築物をはじめ、ほとんどの実用的な人工物は、作り手の意思を表現するために作られたわけではありません。しかし、だからこそ、生み出された当時の人々の生き様や価値観、時代背景、そして生活の歴史がにじみ出ています。いわば「生」そのものではなく、その「痕跡」とでも呼ぶべきようなものが、人工物には刻印されているのです。
 かすかな生の痕跡の中に、かえってまざまざと「人間」を立ち上らせる——そんな人工物の美を称えた書物を集めてみました。

工場萌え

工場萌え 著者:大山 顕、石井 哲 出版社:東京書籍

■迫力ある工場を愛でる

 そびえ立つ煙突、張り巡らされる鉄骨やパイプ、火花が散り、轟音を響かせ、昼夜動き続ける。かつて公害問題で迷惑施設と思われてきた「工場」が、今新たな観光資源として注目されている。そのきっかけの一つとなったのが本書。
 前半は京浜、京葉、鹿島、四日市などのコンビナートを中心とした写真集、後半は見どころ解説の二部構成。
 ライトアップに照らし出された工場は、暴力的な迫力に満ちて、未来派やロシア・アヴァンギャルドの作品を思わせる。

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団地の見究

団地の見究 著者:大山 顕 出版社:東京書籍

■団地という「夢」のあとさき

 上記『工場萌え』でも執筆した「ヤバ景」フォトグラファー・ライターの大山顕氏が、自身の運営するブログ「住宅都市整理公団」で10年にわたって撮りためた団地の写真を集成した。「ヤバ景」とは「一般的には悪い景観だと揶揄されるけど、なんか気になる、あるいはけっこう好き、という風景」とのこと(著者プロフィールより)。
 大判カメラで撮影した精細な画像に、団地ならではの意匠に関するうんちくがたっぷりと盛り込まれ、そこはかとない郷愁がトッピングされている。

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廃墟ディスカバリー

廃墟ディスカバリー 著者:小林 哲朗 出版社:アスペクト

■哀愁を醸し出す廃墟たち

 全国29カ所の「廃墟」を撮った写真集。長崎の「軍艦島」、大阪の「軍艦アパート」(大阪初の鉄筋アパートとして1931年に建てられ、2007年に取り壊された)といった有名どころから、鉱山、刑務所、プール、観光レストランなど、かつて日本が元気だった時代の記憶を呼び起こし、哀愁を誘う建物が選ばれている。

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ニッポン地下観光ガイド

ニッポン地下観光ガイド 著者:小島 健一、栗原 亨、小林 哲朗、津村 匠 出版社:アスペクト

■もう一つの日本

「地下」という多くの人にとっては未知の観光フロンティアを開拓した一冊。全国各地の地下施設・地下空間25カ所を訪ねる写真集&観光ガイド。取り上げられているのは「洞窟・鍾乳洞」、地下壕などの「戦争遺産」、水道などの「ライフライン」、坑道などの「産業遺産」、粒子加速器などの「実験施設」の5ジャンル。写真も見応えがあるが、駐車場の位置まで丁寧に解説されており、ガイド本としても優れた作りだ。

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廃道 棄てられし道

廃道 棄てられし道 著者:丸田 祥三、平沼 義之 出版社:実業之日本社

■アート志向の強い写真集

 棄景(廃路・廃線・廃車体)写真家として知られる丸田祥三と、廃道・廃線などを旅する探検家・平沼義之による叙情的な「廃道」写真集。「改良」の名の下に捨てられた道を全国に訪ね、それにまつわる物語を、物言わぬ対象に語らしめる。ここに紹介した他作品と比べると筆者の作家性が前面に出ており、よりアート志向が強い一冊となっている。

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廃線跡の記録 (三才ムック VOL. 287)

廃線跡の記録 (三才ムック VOL. 287) 著者: 出版社:三才ブックス

■老兵におくる挽歌

「鉄道廃線もの」と言えば故・宮脇俊三の『鉄道廃線跡を歩く』(JTBパブリッシング)など少なくない数の書物が刊行されているが、本書は「産業遺跡」という視点で鉄道廃線を切り取った写真集。
 鉄道の歴史は日本の近代史と切っても切り離せない。近代化・産業化を下支えし、日本の発展を可能にしたのは鉄道であり、不要としてうち捨てられた廃線は、いわば日本資本主義の退役兵なのだ。本書はこうして役目を終えた老兵に対する暖かい視線にあふれている。

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東京鉄塔―ALL ALONG THE ELECTRICTOWER

東京鉄塔―ALL ALONG THE ELECTRICTOWER 著者:サルマル ヒデキ 出版社:自由国民社

■鉄塔の機能美

 毎日の生活を支える電力を、家庭や企業に伝える送電線。本書はそんな送電線をたどり、形状や形式をウォッチングすることを趣味とした著者がブログで連載した写真や解説から、東京23区と奥多摩を縦横に走る鉄塔をまとめたもの。「コックリさん型鉄塔」「ドラキュラ型鉄塔」「男鉄塔/女鉄塔」など、独特の「鉄塔用語集」が楽しい。真下から眺める鉄塔には、機能美とともに時に厳かな威厳さえ感じさせられる。

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