国語辞典を編む

 フランスが55年かかった国語辞典づくりを、わずか9年で完成させたイギリスのジョンソン博士、独特な訳語で人気のある日本の「新解さん」。どことなく変わっててどことなく愛すべき国語辞典に生涯をかけた人や、辞典編さんの現場を描いた物語を紹介します。

舟を編む

舟を編む 著者:三浦 しをん 出版社:光文社

■言葉への愛を込め辞書作り

(売れてる本 2012年1月29日掲載)
 
 今月20日に発表になった「キノベス! 2012」で堂々の第1位。紀伊国屋書店スタッフが過去1年間の新刊(文庫化タイトルは除く)から選んだオススメ本のランキングトップである。4月に発表になる本屋大賞にもノミネートされるなど話題が続いているエンタメ小説だ。
 舞台は総合出版社。主人公は新しい辞書『大渡海』の編纂(へんさん)スタッフとして辞書編集部に異動となった青年、馬締(まじめ)光也だ。言葉に対して繊細な感覚や整理能力を買われての抜擢(ばってき)である。そこから彼は、実に長い道のりを歩んでいくこととなる。
 一冊の辞書が作られていく過程がよく分かる。言葉の雑学や作業の行程など「へえ」と思わせる事柄が多く……もっと読む


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国語辞書一〇〇年―日本語をつかまえようと苦闘した人々の物語

国語辞書一〇〇年―日本語をつかまえようと苦闘した人々の物語 著者:倉島 長正 出版社:おうふう

■日本語体系化の軌跡

(書評 2010年7月25日掲載)

 辞書とは引くものではなく、読むものである。芥川龍之介が大槻文彦の編纂(へんさん)になる『言海』を「読む」楽しみを語っていたことは有名で、これで「よく寝るから寝子(ねこ)」という「猫」の語源の解釈が、人々の知るところとなった。
 『言海』に始まる近代国語辞書についての歴史の蘊蓄(うんちく)を知ることができる本書は、現代最も人口に膾炙(かいしゃ)している辞書『広辞苑』の誕生秘話にまで及ぶ。
 日本語をどう整理し、配列し、意味づけるかは、辞書の大きな課題だった。それは、「日本語」の体系を構築するためには……もっと読む

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国語辞典はこうして作る 理想の辞書をめざして

国語辞典はこうして作る 理想の辞書をめざして 著者:松井栄一 出版社:港の人

■「用例こそ辞書の生命」が著者の信念

(書評 2006年1月22日)

 見出し語の数が四十四万四千五百項目もある辞書を作るのは、さぞ大変な苦労だと思うけれども、長年続けていると、その仕事からは「辞書作りの楽しさ」を味わえるものだという。
 著者は、祖父から三代にわたって『日本国語大辞典』(小学館)の編纂(へんさん)にかかわってきた碩学(せきがく)である。「日の当たらない場所で、掘り出されるのを待っている言葉たちの声」に耳を傾け、語彙(ごい)を増やそうと探し回る採集欲には果てしがない。一つの用例を見つけ出そうと一年かけて三十冊の本を……もっと読む

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新解さんの謎 (文春文庫)

新解さんの謎 (文春文庫) 著者:赤瀬川 原平 出版社:文藝春秋

■偏って人間くさい辞書を楽しみ尽くす

(本の達人 2012年4月17日掲載)

 『ブリタニカ百科事典』が、書籍版の刊行を終えて電子版に完全移行するニュースが報じられてひとつきほどが経つ。あらゆる知識を収めて〝世界を一望のもとに〟しようとする近代的百科事典は、同時期に生まれたパノラマなどとともに「近代」のコンセプトを体現する存在だった(だからこそ、実際には使われなくても、近代的家庭に置かれることには象徴的な意味があったのだ)。
 紙の事典や辞書は、それが書籍であることでいくつもの制約を不可避に抱える。本としての物理的質量。印刷物ゆえの更新頻度の限界。世界を各個人の手元に収めようとする……もっと読む

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孤高 国語学者大野晋の生涯

孤高 国語学者大野晋の生涯 著者:川村 二郎 出版社:東京書籍

■下町っ子の国語学者

(おすすめ 2009年11月1日)

 日本語の起源が南インドの古代タミル語にあったとする「日本語タミル語同系論」を唱えた国語学者大野晋。東京・深川生まれの町っ子でけんかっ早く、司馬遼太郎に「抜き身の刀」と評され、生涯学問を追い続けた人物の評伝を、生前親しくつきあった……もっと読む

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ジョンソン博士の『英語辞典』‐世界を定義した本の誕生

ジョンソン博士の『英語辞典』‐世界を定義した本の誕生 著者:ヘンリー・ヒッチングズ、田中 京子 出版社:みすず書房

■英語版「新解さん」

 イギリス初の本格的な『英語辞典』を、ほぼ一人で1755年に完成させたサミュエル・ジョンソン。1974年生まれのイギリス人筆者がその編さん過程をさかのぼり、18世紀のロンドンの世相とそこに生きたジョンソンの素顔を切り取った2005年の評伝だ。
 国語辞典の編さんにおいてフランスやイタリアに遅れていたイギリスにとって、自国の正統な英語を確認し、それを永久に確定するための辞書づくりは、国家の急務だった。
 フランスがアカデミーを立ち上げ、組織的に取り組んでも55年かかった辞書づくりを、ジョンソンは1746年に『英語辞書』構想をぶち上げ、わずか9年で完成させた。その手法がおもしろい。
 シェークスピアなど過去200年間の文学作品を読みふけり見出し語を拾い、定義した言葉の使い方を示すために引用文を載せた。そして彼独自のユーモラスな表現で定義を当て、自分のような「辞書編集者」(lexicographer) を、「辞書を書く人。害のない単純労働者」(a writer of dictionaries, a harmless drudge) と記した。
 「heart」は「収縮したり膨張したりすることで、血液の循環を促す筋肉。従って生命活動の源とされる。一般的な言い方では、ときには、勇気、ときには愛情が宿るところとされる」と、単なる「心臓」の訳にとどまらない。日本の国語辞書における「新解さん」のように、読む辞書としても楽しめる。
 完成した『英語辞典』は、重さ7.5キロ、見出し語数約4万2000と「大辞典」の名にふさわしく、引用を載せる手法はその後の辞書編さんに大きな影響を与えた。
 ジョンソンは小さな本屋の息子として生まれ、幼年時代の病気のために目と耳が悪く、せっかく入学したオックスフォード大学を経済的理由で中退し、その後教員になり生計を立てた。その生い立ちのせいか、オックスフォードでしか使われることのない、経済的に恵まれた学生に認められた「battel」(食費や宿泊費を後払いにする)という単語と、「commoner」(自費による一般学生=ジョンソンの立場)の単語も同時に引き写している。

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