獏さんのまんが噺 10

 「獏さんのまんが噺 10」は荒木飛呂彦さんの『ジョジョの奇妙な冒険 スティール・ボール・ラン』(集英社)を紹介します。累計6000万部を超す人気作であると同時に、ファッションブランドとのコラボレーションや美術展の開催などでマンガの枠を超える「ジョジョ現象」を生み出しています。
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ゆめまくら・ばく 1951年、神奈川県小田原市生まれ。キマイラやサイコダイバーなど多くの人気シリーズを持ち、『陰陽師』『餓狼伝』など自作が元になったマンガや映画も数多い。『上弦の月を喰べる獅子』で日本SF大賞、『神々の山嶺』で柴田錬三郎賞を受賞。昨夏刊行の『大江戸釣客伝』は泉鏡花文学賞、舟橋聖一文学賞、吉川英治文学賞をトリプル受賞した。近著に『宿神』『陰陽師 酔月ノ巻』『闇狩り師 崑崙の王』がある。
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 過去の主な連載はこちら。第2回(『ポーの一族』『日出処の天子』第3回(『陰陽師』)第5回(『ガラスの仮面』)

スティール・ボール・ラン (1) ジャンプコミックス

スティール・ボール・ラン (1) ジャンプコミックス 著者:荒木 飛呂彦 出版社:集英社

 ――獏さんは荒木さんの初期作『バオー来訪者』(85年)の推薦文を書いたこともあるんですね。

 あれは2巻が出たころだったかなあ。ぼくの好きなタイプの作品でしたよ。
 『バオー来訪者』が「週刊少年ジャンプ」に載ったときから数えれば、荒木作品を30年近く読み続けているので、今回の「ジョジョ」はどこから語りはじめるべきか迷っちゃうなあ。まあ、ジョジョだけに徐々にいきますか。

 ――はあ。

 ところで「ジョジョ立ち」って知ってますか。

 ――よく耳にするんですが、定義が分からないんです。

 ぼくの考えているジョジョ立ちというのは、人間の関節が曲がる限界よりちょっと余計に曲げていたり、回転させてみせたりしているポーズなんです。それが一つのコマや絵のなかですごい「決め」の力を持っている。ジョジョのコスプレをしている人たちのポーズよりも、スポーツ選手の一瞬の動きを写したものの方が「ジョジョ立ちっぽい」のは、そういう肉体の限界をきわめているからなんだろうね。

 ――歌舞伎の見得に近いんですか。

 そうだねえ、すごい決めのポーズという意味では近いのかもしれない。一つのパターンに収斂されないから、「あれはジョジョっぽい」「いや違う」と議論になるんじゃないかな。
  コミックスで100巻、25年以上描き続けることで、荒木さんの絵は完成してきたよね。ポーズだけじゃなくて、衣装にしても、アクセサリーにしてもジョジョファッションとしか言いようがないものになっている。もう自信をもって描いているよね。表紙絵にしても、平気で唇を緑色で描いてさまになっちゃうんだから。やっぱり作品を発表し続けていると、絵がうまくなっちゃうんだよなあ、こんなに。
 それにこれだけの絵になると、今度は絵が内容の質を要求するようになるんだよ。この絵で赤塚さんのようなギャグマンガを作るのはふさわしくないだろうし。小説で言えば文体が文章を規定するようのと同じだね。

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スティール・ボール・ラン (2) ジャンプコミックス

スティール・ボール・ラン (2) ジャンプコミックス 著者:荒木 飛呂彦 出版社:集英社

 ――荒木さん自身も、描き続けるうちにだんだん物語の倫理性も考えざるをえなくなったという趣旨の発言をされていますね。

 作者が20代のときと、40代、50代になってからは違いますよ、やっぱり。それにこれだけ絵がうまくなっちゃうと、もう絵のレベルを落とせないんじゃないかな。
週刊誌とか月刊誌みたいな舞台で作品を発表し続けていると、自然と進化し続けちゃう部分があるんだよ。オレも1年か2年、釣り三昧の生活をしてみたいけど、小説を書くのを止めるのは怖いよ。現在の筆力に戻れなくなっちゃうかもしれないから。

 ――いや、釣りはもう十分されているように見えますが……。ともあれ「ジョジョ」には四半世紀続いただけのすごみがあるんですね。

 マンガからスタートして違う表現、例えばアニメや映画にいってしまう人もいるけど、荒木さんは自分の居場所が分かったときから、ずっとそこを掘り続けたんだよ。そのすごさなんだろうね。
 1800年代のイギリスで始まったジョジョの物語を描き続けていくうちに、描いている時代が現代までおいついてしまったので、次はパラレルワールドを描くようになった。その典型であり到達点がこの「スティール・ボール・ラン」シリーズなんだと思うよ。

 ――ネタバレになってしまいますが、隙間に入ることで時空を超えられるという設定を小説で描こうとしたら大変ですよね。

 うん、文章ではかなり難しいかもしれない。
 オレはおそらく日本で一番格闘シーンを小説にしてきた作家だと思うけれど、格闘シーンを文章で描くのは大変なんだよ。例えば柔道に「送り襟締め」という技があって、知っている人には「送り襟締め」と言えば一発で伝わるんだけれど、知らない人が多そうだなと思ったら「右手でこっちの左襟をとってクロスさせて…」と説明しなきゃならない。その点、絵は情報量が多いから一発で伝わる。ただし、正確に調べて描かないといけないけれど。

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ジョジョの奇妙な冒険 (12) (集英社文庫―コミック版)

ジョジョの奇妙な冒険 (12) (集英社文庫―コミック版) 著者:荒木 飛呂彦 出版社:集英社

 ――格闘マンガとしてのジョジョはどう評価しているんですか。

 昔、ぼくが言う昔はもう大昔なんだけど、昔は主人公が一人いて、相手役もひとり。その敵をやっつけると次のさらに強いやつが出てくるというのが格闘マンガのパターンだったんですよ。でも、いまは同時に何人も敵がいて、その敵同士が戦うこともあって、いろんな複雑な関係のなかで「どっちが強いんだ」ってことをやっている。
 ジョジョがスタートしたころは、まだ「スタンド」という発想がなくて、「波紋」という技での戦いが中心だった。「石仮面」による特殊な能力を持ってしまった人に、肉体的には普通の人間が技でどう戦っていくかという主題は、「スタンド」という仕掛けを使うようになっても続いている。不利な条件をはね返し、あり得ないような強敵を倒していく……そこに努力や友情といった少年マンガの王道の要素が生まれるんだろうね。
 ジョジョの中心にある「スタンド」という仕掛けは「魔法」のようなもので、それ自体は十分に説明されていない。そういう意味では仕掛けを論理化するSFの系譜ではなく、ファンタジーに分類できるだろうね。スタンドはあるんですってことでまず物語が動き出し、そのスタンドの条件が決まってからは、相当に理論を積み上げている。どうしたら相手のスタンドの能力を無効化できるか、とかすごく丁寧に理屈をつけている。
 ある意味で「無理筋」なスタンドという設定を、読者がすとんと受け止めてしまうのも、やはり荒木さんの絵の力ですね。人間の持っているエネルギーを目に見える形にしてみたのがスタンドです、と言われて納得してしまう絵なんです。やっぱりこの絵じゃなきゃ、だめだろうなあ。
 個人的には第二部の最後に出てきて、戦いの末に噴火に巻き込まれて宇宙を漂うことになった「究極生物」をもう一度出して欲しいなあ。あれ、まだ宇宙空間で生きているはずなんだよね。

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闇狩り師 キマイラ天龍変 1 (リュウコミックス)

闇狩り師 キマイラ天龍変 1 (リュウコミックス) 著者:夢枕 獏、伊藤 勢 出版社:徳間書店

 ――そういえば、獏さんのお嬢さんもジョジョ愛読者とか。

 そうなんだよ、文庫になってから読み出したので、コミックスの『スティール・ボール・ラン』はまだ持ってなくて、今回は父親としての株が上がったぞ。解説を書いたことがあるって言っても信じてくれなくて……。
 それはともかく、この春にはちょっと珍しい北欧のタンゴのCD「TANGOFIED」が発売され、応援しています。デンマーク出身のベーシスト、トーベン・ヴェスタゴーとブエノスアイレス出身のピアニスト、ディエゴ・スキッシが、北欧ジャズとタンゴの絶妙な融合をつくりだしていて、何度聴いても引き込まれるね。
 ジャズのライブを聴くようになったり、自分が舞台に立って朗読をするようになると、ライブという場の持つ力のすごさがわかるね。その場でなにかとてつもないものが生まれちゃうことがあるんだよ。
 4月27日には幕張メッセの「ニコニコ超会議2」で、小説ライブというか、ライティングライブというか、7時間で1時間ほどの休みを入れて、25枚(400字換算、約1万字)を書くイベントをします。題材は連載が再開されることになった「キマイラ鬼骨編」の第1回で、そのまま朝日新聞出版の「一冊の本」6月号に掲載する予定です。
 言っておくけど、オレはやるときはやるよ。25枚ぐらいすらすらと。アナログ手書き作家の底力を見せたいねえ。

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