「行く」「居る」にリアル書店の価値を 丸善丸の内本店

2017年04月25日

丸善丸の内本店の店内

壹岐直也店長

 JR東京駅のホームからも高層ビルの側面に見えるイニシャル「M」のマーク。丸善丸の内本店は、1~4階までのフロアに和書100万冊、洋書12万冊を取りそろえる。
 浮き沈みの激しいビジネスの街にオープンして13年。常に多くの客の心を捉え続けている理由は、店に一歩足を踏み入れてみればわかる。
 棚に、壁に、平台に、圧倒的なボリュームを持って整列する本の美しさ。誘われて書棚に近づくと、自筆で添えられた粋な書評に目を奪われ、本の内容をモチーフにしたユニークな装飾に立ち止まる――。一冊一冊が意思をもって「面白いよ」「読んでみて」と、語りかけてくるような巧みな“仕掛け”のある売り場が、客の知的好奇心を刺激する。だから世の本好きたちは、つい何度も店に足を運んでしまうのだ。

■ミュージアムのように

 「店の運営は、“農業”のようなもの。創意工夫し、手をかければかけるほど、大きな実りを収穫できる」
 そう持論を説くのは、開店プロジェクトに関わり、以来ずっと店づくりの陣頭指揮を執る壹岐直也店長だ。
 東京・丸の内の一等地。ここに創業140年を超える老舗の新たな拠点を構えるからには、他に類のない店を作ろうと決めた。
 「居心地がよく、おしゃれに。まるで“ミュージアム”を回遊するような、ワクワクする空間をご提供したかったのです」(壹岐店長)
 店の大きな特徴は、4階までのフロアごとにコンセプトを設けたこと。
ビジネスパーソンの多い立地を意識し、1階を異例のビジネス書売り場と決め、コンセプトを「本で学ぶ」に。2階は趣味・実用書、雑誌売り場で「本を楽しむ」、3階は教養書や専門書売り場で「本を選ぶ」、4階は洋書のほか文具やカフェ・ギャラリーなどを設けて「感性を高める」と、売り場に強い個性を持たせた。
 改めて各フロアを歩いてみると、それを体感できる。
 磨き御影石を敷いた床に注目したい。ビジネスパーソンが多い1階は爽快な「ホワイト」。女性客が多い2階はやさしい「ベージュ」。専門的な書籍が並ぶ3階は落ち着いた「ブラウン」。ギャラリーや高級万年筆なども扱う4階はグレード感のある「グレー」と、各階で色が違う。
 「それだけではありません。書棚の側板や照明も、床の色と合わせて細かく計算し、変えています。フロアの雰囲気を左右する『色』と『光』は、オープン前に最もこだわった点の一つです」と、壹岐店長。

■価値を創造し続ける

 細部にこだわるわけは、各地で新店オープンに携わった経験を持つ壹岐店長が、「リアル書店の強み」を熟知しているからにほかならない。本人いわく「リアル書店の強みはふたつある」という。
 ひとつ目は「そこに『行く』ことで思わぬ発見があること」。
 ふたつ目は「そこに『居る』ことに価値があること」。
例えば、各ジャンルに複数の「ブックアドバイザー」を配しているのは、前者に対応した好例だ。アドバイザーのひとことが、客に新しい発見をもたらす。特に「友人に出産のお祝いの絵本を贈りたい」「祖母が喜ぶ小説がほしい」といった本のタイトルがわからないときなどは、彼らの知見が武器となる。
 また、店内でイベントやフェア、ギャラリー展示などをひんぱんに実施するのは、本探しとは一味違う「価値」の提供につながるからだ。
 本を買いに行ったついでに素晴らしいアートと出会い、時に創始者仕込みで名高い「早矢仕ライス」に舌鼓を打つ。
「丸善の丸の内本店にいると、なんだか『知的でおしゃれな自分』になったような気になる――そんな価値を創造し続けたい。この思いを約200人の従業員と共有し、いつも新しいことを考えています」(壹岐店長)
 当初から開店時間を一般的な書店よりも早い朝9時にしたのも、「出勤途中にも立ち寄りたくなる店に」という決意の表れだという。店のこれからを考え、変化もいとわない。老舗書店が挑み続ける攻めの売り場づくりには、リアル書店の計り知れない可能性がある。(吉岡秀子)

■丸善丸の内本店 担当書店員のおすすめ本

〈ビジネス書〉
「決定版AI 人工知能」(東洋経済新報社・1728円)
「マッキンゼーが予測する未来 近未来のビジネスは、4つの力に支配されている」(ダイヤモンド社・1944円)
「スタンフォード式 最高の睡眠」(サンマーク出版・1620円)
「SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術」(ダイヤモンド社・1620円)
 人気のあるビジネス書のキーワードは「人工知能と未来」そして「効果的な睡眠」。上記4冊は、生産性の高い働き方を探る丸の内のビジネスパーソンに強く響いている。

〈文芸書〉
 「暗黒グリム童話集」(講談社・3024円)
 6人の作家と6人の画家のコラボレーションで実現した斬新なグリム童話集。装丁がアートのようで美しい。

〈人文書〉
「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福・上下」(河出書房新社・各2052円)
 最も話題を集めている一冊なので押さえておきたい。ホモ・サピエンスの歴史を俯瞰し、現代社会の問題をえぐる。

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